唐突だが、アシュレイが1年のうちに極めて不機嫌になるときが2日ある。
その2日間に関係しているキーやんは毎年懲りもせず、アシュレイに招待状を送ってくる。
その日が近づくにつれ……アシュレイの機嫌は加速度的に悪くなり、彼女の情事は極めて猟奇的なものになっていく。
特に前日は凄まじく、極上の淫魔が1000人単位で動員され、アシュレイのご機嫌取りに奔走する。
さて、それほどまでにアシュレイを苛立たせるその2日間とはキリストの誕生日。
いわゆるクリスマスとクリスマスイブであった。
「何でキーやんの誕生日が人間界で盛大に行われて、記念日にもなってるのに私の誕生日はそうなっていないのよ」
不機嫌な顔で告げるアシュレイ。
彼女は自室でエヴァンジェリンを呼び、お茶会という名の愚痴吐きをエヴァンジェリンに行なっていた。
聞かされる側からすれば堪ったものじゃないが、そこは宮仕えの悲しいところ。
エヴァンジェリンは文句を言いながらも、アシュレイの愚痴に付き合うしかなかった。
「そりゃ、悪魔だしな。あと、その話題は34回目だ」
エヴァンジェリンの最もな言葉だったが、アシュレイは我慢ならない。
基本的に自分が一番目立っていなくては嫌な彼女である。
「エヴァ、あなたは何か思わないの?」
「クリスマスは嫁としっぽりするんだ。いいじゃないか、クリスマスくらい。お前も婚約者としっぽりすればいいんじゃないか?」
けんもほろろにそう言われてしまう。
アシュレイとて相手は掃いて捨てる程にいる。
婚約者のフレイヤを筆頭に絶世の美女達がアシュレイに誘われれば喜んでクリスマスを過ごすだろう。
「私の誕生日だって記念日にしたいの。かくなる上は人類を脅すしか……」
「おいバカやめろ。どこの世界に自分の誕生日の為に人類を脅迫する魔王がいるんだ?」
「ここにいるぞー!」
元気よく手を挙げるアシュレイにエヴァンジェリンは処置なし、と肩を竦める。
そのとき、ドアがノックされた。
アシュレイが許可を出せばいつもよりもスカートが短く、下着がチラチラと見えているテレジアが入ってきた。
クリスマスを一緒に過ごす為のアピールだ。
彼女達もアシュレイの気を引く為にわりと苦労しているようだ。
無論、アシュレイとてバカではないのでそこらには気がついている。
とはいえ、彼女にとってはどうやって自分の誕生日を記念日にさせるか、そちらの方が重要だった。
「アシュ様、キリストから誕生日パーティーの招待状が……」
差し出された手紙。
それをアシュレイはテレジアからひったくるとガジガジとその歯で噛み、ビリビリに破いた上で飲み込んでしまった。
まさかの凶行だが、毎年のことなので2人とも慣れっこだ。
「ああもうあの似非敬語野郎め……こうなったらあいつの母親を寝取ってやる! 誕生日パーティーに戦力揃えて殴りこみよ!」
これである。
毎年毎年こういう結論だ。
そして、毎年毎年、キリストの母親であるマリアに赤子のようにあやされて、頭をなでなでされて帰ってくるのだ。
三界で恐怖されるアシュレイも、どうにもあの聖母マリアは苦手であった。
彼女は無限の包容力で何もかも優しく包み込んでしまうのだ。
アシュレイがどんなに怒り狂っていても、そっと優しく抱きしめられ、頭をなでなでされたらそれで試合終了だった。
ちなみにそのときのアシュレイは別人かと思う程にしおらしくなる。
普段のタカビーで傲慢で自己中で欲望一直線な性格が全く鳴りを潜め、見た目相応の少女になるのだ。
テレジアをはじめとした側近達が毎年毎年止めもせずにアシュレイに従って、キーやんの誕生日パーティーに行くのは、ひとえにそのアシュレイを見る為と言っても過言ではない。
なお、そのときのアシュレイの様子は神魔族も写るような特殊な魔法が掛けられた写真や動画に収められ、恐ろしい程の高値で魔界や神界で売りさばかれている。
勿論、テレジア達は自分達の為に、と観賞用・保存用・実用・予備と確保しているのは言うまでもない。
そして、タダでは転ばないアシュレイはそれをしっかりと自らが流通を管理することで利益を上げていたりする。
内容は黒歴史だが、それでも金になるなら、と頑張る彼女はやっぱり凄かった。
「あの、アシュ様」
今度、入ってきたのはシルヴィアだった。
彼女はいつもの真っ黒な服ではなく、何故かミニスカでかつ、サンタクロースの格好をしている。
首にはベルが。
「……クリスマスなんて死ねばいいのに」
ポツリ、とアシュレイが呟いた怨念がたっぷり篭った言葉。
勿論、シルヴィアが駄目だから、とそういう意味ではなく、キーやんの誕生日なのに自分の配下達がここまで浮かれていることにだ。
まあ、結局最後は着飾ったテレジア達を美味しく頂くのだが。
「アシュ様……その、似合いませんか?」
普段はクールなシルヴィアが悲しげな顔でその豊満な胸を押さえつつ、問いかけた。
とりあえずアシュレイは素早くシルヴィアの背後に回り、その胸を後ろから揉みしだいた。
「似合ってるわよ。でも、ベルより首輪の方が私としては好み」
クリスマスとかもはや関係なかった。
シルヴィアは喘ぎながらもどうにかその用件を告げる。
その用件はウリエルがやってきた、というものだった。
「ああ、あのシスコンのウリ公? あんなの5000年くらい待たせても問題ないわよ」
うんうん、と頷くアシュレイ。
一応熾天使のウリエルをそんな風に呼べるのは彼女くらいなものだ。
それ故にアシュレイはシルヴィアとテレジア、そしてエヴァンジェリンを美味しく頂こうとするが、それは阻止されることとなった。
アシュレイは殺気を感じ、シルヴィアごと横に倒れれば数秒前までいた空間には神々しい槍が突き立てられていた。
「アシュタロス、人を待たせて何をしているつもりだ?」
「あら、ウリエル。使いっ走りのあなたが私にこんなことをしていいと思ってるの? ハルマゲドンになるわよ?」
ふん、と鼻を鳴らすウリエル。
彼はどうせアシュレイがまともに会わないだろう、と予期して勝手にここまでやってきていた。
本来なら侵入者として排除されるのだが、クリスマス前のこの時期に限ってはこれは恒例行事であった。
「で、私が来たのは分かっているな? どうせお前は今年も招待状を飲み込んだんだろう?」
「当然。あんのコンチクショウめ……自分の誕生日だけ盛大にあんなに祝われて調子に乗ってるわ」
「……そこは突っ込むところなのか?」
ウリエルは真顔で尋ねた。
三界で一番調子に乗ってるのは言うまでもなくアシュレイである。
しかし、彼女は気にしない。なぜなら彼女は魔王だからだ。
「で、ウリ坊。あなたは今年も案内役なのね?」
「実に残念なことにな。顔はいいが、性格最悪のお前を案内してやることになった」
「シスコンなあなたはきっとアムラエルにイケナイ妄想を抱いているのでしょうね」
ウリエルは無言でアシュレイを殴ろうとした。
しかし、彼女は無駄な素早さを発揮し、ひらりと回避。
「24日の夕方に迎えに来る。それまでに首を洗って待っておけ」
「あんたはそこらの壁に頭ぶつけて死んでていいわ。アムラエルを出せ」
悪口の応酬であったが、テレジアもシルヴィアもエヴァンジェリンも慣れたもの。
これもまた恒例行事なのだ。
ともかく、ウリエルはさっさと帰っていった。
邪魔者が消えたのでアシュレイはそのまま3人を美味しく頂いた。
そして迎えた24日。
アシュレイはテレジア以下、総勢100名もの実力者達を揃えた。
その中にはヘルマンやコンロン、ダイ・アモンの三羽烏の姿も当然あり、何故かリリスやリリムなどの淫魔の姿まである。
彼女達はアシュレイにお願いしてくっついていくのが毎年の恒例だ。
そんな彼らの前で檄を飛ばすアシュレイ。
「毎年毎年懲りもせんこっちゃ」
やれやれ、とサッちゃんは肩を竦める。
彼以外にベルゼブブなどの他の魔王も当然一緒に行く。
そんな中で随員が100名とかいう人数になっているのはアシュレイだけだ。
そんなとき、ウリエルが現れた。
彼はアシュレイを見、盛大な溜息を吐きつつも彼女を無視してサッちゃんの近くへと歩み寄る。
「サタン様、準備はよろしいですか?」
「ワイらはええけど、アシュタロスは良くないんとちゃう? ちょうど演説で一番盛り上がるところやろ」
神族の悪行とか傲慢とか何とか色々と聞こえてくる。
下級の、純粋な魔族ならその演説に感動してしまうところだが、これから起こることが分かっている100名の配下達は微笑ましい視線をアシュレイに向けるだけである。
普段は恐れられているアシュレイもこの2日間だけは何をやっても威厳が無くなるという悲しいときなのだ。
「アシュタロス」
ウリエルは呼んだ。
しかし、演説に夢中なアシュレイは気づかない。
「変態、好色」
やはり聞こえていないらしい。
仕方がないのでウリエルは伝家の宝刀、アシュレイを一瞬で気づかせる単語を告げることにした。
「アムラエルが来てるぞ」
「アムちゃーん! どこー!」
文字通りの光の速さでアシュレイはウリエルの傍まで来るときょろきょろと探し始めた。
24日と25日のアシュレイはまるで駄目なふたなり娘になるようだ。
気配を探ればアムラエルがいないことくらい分かるのである。
「お前のような変態がいるところに妹をやるわけないだろう」
ウリエルが忌々しげに告げた。
嘘をつかれたアシュレイはむっと頬を膨らませ、彼を睨みつける。
「嘘をついていいと思ってるの! 悪魔でも嘘はつかないのに!」
「それはそれ、これはこれだ」
神に裏切られて、というのはわりとよくある話である。
主がそうするのならば神の使いである天使達もそうすることは稀にある。
「ともあれ、さっさと行きますが、よろしいですね?」
ウリエルの問いにサッちゃんは頷いたのだった。
どこでキーやんの誕生日パーティーが開かれるかというと、今年は妙神山だった。
マンネリを無くす為に毎年毎年場所は変わり、その土地の料理を楽しむわけだ。
妙神山に到着したサッちゃん一行は会場へと入った。
そこは主神達が既に集っており、主役のキーやんの姿も見える。
「キリストぉおおお」
アシュレイが叫びながら突っ込んだ。
「死ねぇえええ」
金剛石も砕けるその拳をアシュレイはキーやんの顔面に叩きこもうとした。
普段ならこれでハルマゲドン一直線なのだが、今日と25日は許される。
なぜならこの場にいる全ての者達はキーやんが絶対に倒されないことを知っていたからだ。
そして、あのアシュタロスの滅多に見られない顔が見られることも。
キーやんに届く前に彼とアシュレイとの間に割り込んだ者がいた。
その者により、アシュレイは首根っこを猫のように掴まれてしまう。
「アシュちゃんだぁー」
きゃー、と言いながらアシュレイを抱きしめる女性。
あのアシュタロスをアシュちゃんと呼べるのは世界広しといえど、たった1人しかいない。
「げぇっ、マリア!」
「1年ぶりのアシュちゃんもふもふー」
背中の翼に顔を埋めるマリア。
この妙に子供っぽい性格は狙ってるのか、それとも素なのか。
キーやんにも分からなかったりする。
「ちょっと助けなさいよ!」
アシュレイは叫んだが、助けを求めた相手――テレジア達はすんごいいい笑顔で抱きしめられてもふもふされている彼女を見ていた。
そして、各々が色んな撮影機材を取り出してその姿を撮り始めた。
コレは駄目だ、と思ったアシュレイは大人しくマリアにされるがままになった。
「さて、アシュタロスの可愛い姿も披露されたのでそろそろパーティーを始めましょう」
キーやんの一声で彼の誕生日パーティーは始まった。
アシュレイはマリアに抱っこされて色々と世話を焼かれていた。
そして、その姿の一部始終をカメラに収めるテレジア達。
勿論、彼女らは鼻血を流しているが、人外なので大丈夫だ。
「アシュちゃん、フレイヤちゃんとはどうなの? アシュちゃんモテるし、気が多いから私、心配だわ」
何故かアシュレイのお母さん面をするマリア。
これはマリアとアシュレイが初めて会ったときから続いていることだったりする。
大人の姿を取っている者がほとんどの魔王達の中で唯1人、少女の姿をしているアシュレイ。
そんな彼女はマリアの心の琴線に触れてしまったらしい。
「……大丈夫」
恥ずかしそうにそっぽを向きながら答えるアシュレイ。
そんな仕草にテレジアが鼻血をより勢い良く吹き出しながらひっくり返った。
しかし、誰も彼女を助けようとはしない。
そんなことよりも、アシュレイの姿を撮る方が大事なのである。
「それならいいわ……アシュちゃんのお胸はどうかしら」
そう言いつつ、アシュレイの胸をまさぐるマリア。
これも1年の恒例行事である。
マリア本人としては子供は女の子が欲しかったとのことだ。
「んっ、やぁ……」
こそばゆい感触にアシュレイは身を捩りつつ、喘ぐ。
ベアトリクスが今度はひっくり返った。
鼻血で顔を真っ赤にしながらも、その表情は実に安らかだった。
他の出席者達も同じようなもので、誕生日パーティーそっちのけでアシュレイをガン見である。
実際のところ、誕生日パーティーというのはただの建前で、アシュタロスのあんな姿やこんな姿を見よう、という集まりになりつつあった。
どうやら24日と25日はアシュレイだけでなく、主神や魔王達もまるで駄目な連中と化すようだった。
その2日間に関係しているキーやんは毎年懲りもせず、アシュレイに招待状を送ってくる。
その日が近づくにつれ……アシュレイの機嫌は加速度的に悪くなり、彼女の情事は極めて猟奇的なものになっていく。
特に前日は凄まじく、極上の淫魔が1000人単位で動員され、アシュレイのご機嫌取りに奔走する。
さて、それほどまでにアシュレイを苛立たせるその2日間とはキリストの誕生日。
いわゆるクリスマスとクリスマスイブであった。
「何でキーやんの誕生日が人間界で盛大に行われて、記念日にもなってるのに私の誕生日はそうなっていないのよ」
不機嫌な顔で告げるアシュレイ。
彼女は自室でエヴァンジェリンを呼び、お茶会という名の愚痴吐きをエヴァンジェリンに行なっていた。
聞かされる側からすれば堪ったものじゃないが、そこは宮仕えの悲しいところ。
エヴァンジェリンは文句を言いながらも、アシュレイの愚痴に付き合うしかなかった。
「そりゃ、悪魔だしな。あと、その話題は34回目だ」
エヴァンジェリンの最もな言葉だったが、アシュレイは我慢ならない。
基本的に自分が一番目立っていなくては嫌な彼女である。
「エヴァ、あなたは何か思わないの?」
「クリスマスは嫁としっぽりするんだ。いいじゃないか、クリスマスくらい。お前も婚約者としっぽりすればいいんじゃないか?」
けんもほろろにそう言われてしまう。
アシュレイとて相手は掃いて捨てる程にいる。
婚約者のフレイヤを筆頭に絶世の美女達がアシュレイに誘われれば喜んでクリスマスを過ごすだろう。
「私の誕生日だって記念日にしたいの。かくなる上は人類を脅すしか……」
「おいバカやめろ。どこの世界に自分の誕生日の為に人類を脅迫する魔王がいるんだ?」
「ここにいるぞー!」
元気よく手を挙げるアシュレイにエヴァンジェリンは処置なし、と肩を竦める。
そのとき、ドアがノックされた。
アシュレイが許可を出せばいつもよりもスカートが短く、下着がチラチラと見えているテレジアが入ってきた。
クリスマスを一緒に過ごす為のアピールだ。
彼女達もアシュレイの気を引く為にわりと苦労しているようだ。
無論、アシュレイとてバカではないのでそこらには気がついている。
とはいえ、彼女にとってはどうやって自分の誕生日を記念日にさせるか、そちらの方が重要だった。
「アシュ様、キリストから誕生日パーティーの招待状が……」
差し出された手紙。
それをアシュレイはテレジアからひったくるとガジガジとその歯で噛み、ビリビリに破いた上で飲み込んでしまった。
まさかの凶行だが、毎年のことなので2人とも慣れっこだ。
「ああもうあの似非敬語野郎め……こうなったらあいつの母親を寝取ってやる! 誕生日パーティーに戦力揃えて殴りこみよ!」
これである。
毎年毎年こういう結論だ。
そして、毎年毎年、キリストの母親であるマリアに赤子のようにあやされて、頭をなでなでされて帰ってくるのだ。
三界で恐怖されるアシュレイも、どうにもあの聖母マリアは苦手であった。
彼女は無限の包容力で何もかも優しく包み込んでしまうのだ。
アシュレイがどんなに怒り狂っていても、そっと優しく抱きしめられ、頭をなでなでされたらそれで試合終了だった。
ちなみにそのときのアシュレイは別人かと思う程にしおらしくなる。
普段のタカビーで傲慢で自己中で欲望一直線な性格が全く鳴りを潜め、見た目相応の少女になるのだ。
テレジアをはじめとした側近達が毎年毎年止めもせずにアシュレイに従って、キーやんの誕生日パーティーに行くのは、ひとえにそのアシュレイを見る為と言っても過言ではない。
なお、そのときのアシュレイの様子は神魔族も写るような特殊な魔法が掛けられた写真や動画に収められ、恐ろしい程の高値で魔界や神界で売りさばかれている。
勿論、テレジア達は自分達の為に、と観賞用・保存用・実用・予備と確保しているのは言うまでもない。
そして、タダでは転ばないアシュレイはそれをしっかりと自らが流通を管理することで利益を上げていたりする。
内容は黒歴史だが、それでも金になるなら、と頑張る彼女はやっぱり凄かった。
「あの、アシュ様」
今度、入ってきたのはシルヴィアだった。
彼女はいつもの真っ黒な服ではなく、何故かミニスカでかつ、サンタクロースの格好をしている。
首にはベルが。
「……クリスマスなんて死ねばいいのに」
ポツリ、とアシュレイが呟いた怨念がたっぷり篭った言葉。
勿論、シルヴィアが駄目だから、とそういう意味ではなく、キーやんの誕生日なのに自分の配下達がここまで浮かれていることにだ。
まあ、結局最後は着飾ったテレジア達を美味しく頂くのだが。
「アシュ様……その、似合いませんか?」
普段はクールなシルヴィアが悲しげな顔でその豊満な胸を押さえつつ、問いかけた。
とりあえずアシュレイは素早くシルヴィアの背後に回り、その胸を後ろから揉みしだいた。
「似合ってるわよ。でも、ベルより首輪の方が私としては好み」
クリスマスとかもはや関係なかった。
シルヴィアは喘ぎながらもどうにかその用件を告げる。
その用件はウリエルがやってきた、というものだった。
「ああ、あのシスコンのウリ公? あんなの5000年くらい待たせても問題ないわよ」
うんうん、と頷くアシュレイ。
一応熾天使のウリエルをそんな風に呼べるのは彼女くらいなものだ。
それ故にアシュレイはシルヴィアとテレジア、そしてエヴァンジェリンを美味しく頂こうとするが、それは阻止されることとなった。
アシュレイは殺気を感じ、シルヴィアごと横に倒れれば数秒前までいた空間には神々しい槍が突き立てられていた。
「アシュタロス、人を待たせて何をしているつもりだ?」
「あら、ウリエル。使いっ走りのあなたが私にこんなことをしていいと思ってるの? ハルマゲドンになるわよ?」
ふん、と鼻を鳴らすウリエル。
彼はどうせアシュレイがまともに会わないだろう、と予期して勝手にここまでやってきていた。
本来なら侵入者として排除されるのだが、クリスマス前のこの時期に限ってはこれは恒例行事であった。
「で、私が来たのは分かっているな? どうせお前は今年も招待状を飲み込んだんだろう?」
「当然。あんのコンチクショウめ……自分の誕生日だけ盛大にあんなに祝われて調子に乗ってるわ」
「……そこは突っ込むところなのか?」
ウリエルは真顔で尋ねた。
三界で一番調子に乗ってるのは言うまでもなくアシュレイである。
しかし、彼女は気にしない。なぜなら彼女は魔王だからだ。
「で、ウリ坊。あなたは今年も案内役なのね?」
「実に残念なことにな。顔はいいが、性格最悪のお前を案内してやることになった」
「シスコンなあなたはきっとアムラエルにイケナイ妄想を抱いているのでしょうね」
ウリエルは無言でアシュレイを殴ろうとした。
しかし、彼女は無駄な素早さを発揮し、ひらりと回避。
「24日の夕方に迎えに来る。それまでに首を洗って待っておけ」
「あんたはそこらの壁に頭ぶつけて死んでていいわ。アムラエルを出せ」
悪口の応酬であったが、テレジアもシルヴィアもエヴァンジェリンも慣れたもの。
これもまた恒例行事なのだ。
ともかく、ウリエルはさっさと帰っていった。
邪魔者が消えたのでアシュレイはそのまま3人を美味しく頂いた。
そして迎えた24日。
アシュレイはテレジア以下、総勢100名もの実力者達を揃えた。
その中にはヘルマンやコンロン、ダイ・アモンの三羽烏の姿も当然あり、何故かリリスやリリムなどの淫魔の姿まである。
彼女達はアシュレイにお願いしてくっついていくのが毎年の恒例だ。
そんな彼らの前で檄を飛ばすアシュレイ。
「毎年毎年懲りもせんこっちゃ」
やれやれ、とサッちゃんは肩を竦める。
彼以外にベルゼブブなどの他の魔王も当然一緒に行く。
そんな中で随員が100名とかいう人数になっているのはアシュレイだけだ。
そんなとき、ウリエルが現れた。
彼はアシュレイを見、盛大な溜息を吐きつつも彼女を無視してサッちゃんの近くへと歩み寄る。
「サタン様、準備はよろしいですか?」
「ワイらはええけど、アシュタロスは良くないんとちゃう? ちょうど演説で一番盛り上がるところやろ」
神族の悪行とか傲慢とか何とか色々と聞こえてくる。
下級の、純粋な魔族ならその演説に感動してしまうところだが、これから起こることが分かっている100名の配下達は微笑ましい視線をアシュレイに向けるだけである。
普段は恐れられているアシュレイもこの2日間だけは何をやっても威厳が無くなるという悲しいときなのだ。
「アシュタロス」
ウリエルは呼んだ。
しかし、演説に夢中なアシュレイは気づかない。
「変態、好色」
やはり聞こえていないらしい。
仕方がないのでウリエルは伝家の宝刀、アシュレイを一瞬で気づかせる単語を告げることにした。
「アムラエルが来てるぞ」
「アムちゃーん! どこー!」
文字通りの光の速さでアシュレイはウリエルの傍まで来るときょろきょろと探し始めた。
24日と25日のアシュレイはまるで駄目なふたなり娘になるようだ。
気配を探ればアムラエルがいないことくらい分かるのである。
「お前のような変態がいるところに妹をやるわけないだろう」
ウリエルが忌々しげに告げた。
嘘をつかれたアシュレイはむっと頬を膨らませ、彼を睨みつける。
「嘘をついていいと思ってるの! 悪魔でも嘘はつかないのに!」
「それはそれ、これはこれだ」
神に裏切られて、というのはわりとよくある話である。
主がそうするのならば神の使いである天使達もそうすることは稀にある。
「ともあれ、さっさと行きますが、よろしいですね?」
ウリエルの問いにサッちゃんは頷いたのだった。
どこでキーやんの誕生日パーティーが開かれるかというと、今年は妙神山だった。
マンネリを無くす為に毎年毎年場所は変わり、その土地の料理を楽しむわけだ。
妙神山に到着したサッちゃん一行は会場へと入った。
そこは主神達が既に集っており、主役のキーやんの姿も見える。
「キリストぉおおお」
アシュレイが叫びながら突っ込んだ。
「死ねぇえええ」
金剛石も砕けるその拳をアシュレイはキーやんの顔面に叩きこもうとした。
普段ならこれでハルマゲドン一直線なのだが、今日と25日は許される。
なぜならこの場にいる全ての者達はキーやんが絶対に倒されないことを知っていたからだ。
そして、あのアシュタロスの滅多に見られない顔が見られることも。
キーやんに届く前に彼とアシュレイとの間に割り込んだ者がいた。
その者により、アシュレイは首根っこを猫のように掴まれてしまう。
「アシュちゃんだぁー」
きゃー、と言いながらアシュレイを抱きしめる女性。
あのアシュタロスをアシュちゃんと呼べるのは世界広しといえど、たった1人しかいない。
「げぇっ、マリア!」
「1年ぶりのアシュちゃんもふもふー」
背中の翼に顔を埋めるマリア。
この妙に子供っぽい性格は狙ってるのか、それとも素なのか。
キーやんにも分からなかったりする。
「ちょっと助けなさいよ!」
アシュレイは叫んだが、助けを求めた相手――テレジア達はすんごいいい笑顔で抱きしめられてもふもふされている彼女を見ていた。
そして、各々が色んな撮影機材を取り出してその姿を撮り始めた。
コレは駄目だ、と思ったアシュレイは大人しくマリアにされるがままになった。
「さて、アシュタロスの可愛い姿も披露されたのでそろそろパーティーを始めましょう」
キーやんの一声で彼の誕生日パーティーは始まった。
アシュレイはマリアに抱っこされて色々と世話を焼かれていた。
そして、その姿の一部始終をカメラに収めるテレジア達。
勿論、彼女らは鼻血を流しているが、人外なので大丈夫だ。
「アシュちゃん、フレイヤちゃんとはどうなの? アシュちゃんモテるし、気が多いから私、心配だわ」
何故かアシュレイのお母さん面をするマリア。
これはマリアとアシュレイが初めて会ったときから続いていることだったりする。
大人の姿を取っている者がほとんどの魔王達の中で唯1人、少女の姿をしているアシュレイ。
そんな彼女はマリアの心の琴線に触れてしまったらしい。
「……大丈夫」
恥ずかしそうにそっぽを向きながら答えるアシュレイ。
そんな仕草にテレジアが鼻血をより勢い良く吹き出しながらひっくり返った。
しかし、誰も彼女を助けようとはしない。
そんなことよりも、アシュレイの姿を撮る方が大事なのである。
「それならいいわ……アシュちゃんのお胸はどうかしら」
そう言いつつ、アシュレイの胸をまさぐるマリア。
これも1年の恒例行事である。
マリア本人としては子供は女の子が欲しかったとのことだ。
「んっ、やぁ……」
こそばゆい感触にアシュレイは身を捩りつつ、喘ぐ。
ベアトリクスが今度はひっくり返った。
鼻血で顔を真っ赤にしながらも、その表情は実に安らかだった。
他の出席者達も同じようなもので、誕生日パーティーそっちのけでアシュレイをガン見である。
実際のところ、誕生日パーティーというのはただの建前で、アシュタロスのあんな姿やこんな姿を見よう、という集まりになりつつあった。
どうやら24日と25日はアシュレイだけでなく、主神や魔王達もまるで駄目な連中と化すようだった。