アシュレイはアペプからもらった任務をルシフェルとの会話後、さくっと消化し、加速空間に戻っていた。
しばらく心を落ち着ける為に静養しよう、と彼女は決めたのだ。
唐突だが、悪魔や神も風呂に入ったりする。
上位者であればあるほど、人間と似たような生活を送るようになる。
アシュレイも一時は人間離れした生活を送っていたが、最近では人間と似たような生活を送るようになっている。
すなわち、食事をし、風呂に入り、とそういう生活だ。
無論、とても爛れた生活であるが、それでも似たような生活であることは間違いない。
ともあれ、彼ら上位悪魔や上位神族がそうする理由はそれらが娯楽の一つであるからだ。
風呂は安らぎを得、食事はその味を楽しむ。
今日はそんなアシュレイの爛れた一日をお送りしよう。
「ん……」
ゆっくりとアシュレイは瞼を開けた。
視界にはリリスの顔が。
彼女は満面の笑顔で告げる。
「おはよう、アシュ様」
「おはよ……ああ、今日の一番搾りはあなただったの」
寝起きのアシュレイに抱かれるのは1日ごとの交代制だ。
順番を決めるのに壮絶な戦いがあったのだが、そこは割愛する。
「アシュ様、おはようございます」
リリスと致した後、終わるのを見計らったようにテレジアがやってきた。
「今日の朝ご飯は?」
「ステーキ、サラダ、オニオンスープ、ライスです」
朝食とは思えない重い料理だが、魔族には関係ない。
「ステーキは何の肉?」
「牛肉です」
「この前は5歳の女の子のお肉だったわね」
「地獄中央市場から生きの良いものが入りましたので」
「確かに美味しかった……って、勿体無いからできるだけ5体満足の生きた状態で持ってきて頂戴」
言うまでもないが、アシュレイは吸血鬼的な魔族である。
彼女は人間の血も肉も美味しく食べることができる。
しかし、彼女は血は吸っても、肉を食べるということはしない。
なぜならば勿体無いのだ。
彼女の好物は言うまでもなく女。
だが、肉まで食べてしまっては食べられた側は死んでしまう。
それは勿体無い。一時の快楽だ。
しかし、生きたままとっておけばその後も性的な意味で長く美味しくいただける。
これは言うまでもなく、アシュレイの個人的な感情であり、そうされてしまう人間のことは全く考えていない。
アシュレイは確かに自分を崇める人間には優しい。
逆に言えば、それ以外の人間には悪魔らしく残酷であった。
アシュレイはテレジア、リリスを連れて食堂へと向かう。
加速空間にある屋敷の食堂はそれなりに大きい。
彼女が食事をするときは歌の上手い淫魔達がその歌声を披露し、給仕をするのはその道のプロになってしまったテリアナ。
酒場のウェイトレスが魔神専用ウェイトレスになる、というのはその経緯を考えても、出世なのかどうか複雑なところであった。
「アシュ様、おはようございます」
食堂ではリリムがおり、にこやかな笑顔で挨拶してくる。
「おはよう」
アシュレイはそう告げ、専用の椅子に座る。
リリムはそれを見、待機している淫魔達に合図を出せば、彼女達はその歌声を披露し始めた。
その歌は不思議な旋律だ。
聖歌のようでありながら、禍々しさがある。
リリスとリリムはアシュレイの椅子の左右に陣取る。
2人の役目は食事中のアシュレイの話し相手だが、話をするだけにとどまらないときもあるのは言うまでもない。
さて、準備が整ったところでテレジアが料理を運んでくる。
淫魔達の歌声が響く中、アシュレイはわりと優雅に食事を行う。
過去、アシュタロスから魔王になると、色々と付き合いも増えるのでテーブルマナーは完璧に、と教えてもらったからだ。
当時のアシュレイとしてはそういうのを気にせず、極普通に食べたかったのだが、すっかり今では慣れてしまい、逆に粗雑な食べ方ができなくなってしまった。
「アシュ様、今日はどう過ごされますか?」
ゆっくりと食事を進めるアシュレイにリリムが問いかけた。
「そうね……この後はここにいる子達を抱いて……散歩かしらね。ドレミと」
「アシュ様、私もついていきたいなー」
そう言うリリスにアシュレイは首を傾げる。
「ねぇ、リリス。あなたとリリムも抱くのだけど。腰が抜けるまで」
その言葉にリリスはアシュレイに抱きついた。
胸の感触にアシュレイは思わず頬を緩める。
言うまでもないが、淫魔にとってそういうことを言われるのはとても嬉しいことであった。
「ともあれ、食事をしたいのだけど」
さすがのアシュレイも抱きつかれた状態では食べることができなかった。
リリスは名残惜しそうな顔で離れるが、その際、アシュレイの顔にキスしていくことを忘れない。
リリムは母親のアシュレイの邪魔をするという行動に若干の不快感を示しながらも、気持ちは分かるので何も言わない。
「どんな風にやろうかしらね……コスプレ……制服……学校……!」
食事後にするプレイ内容を思い描いている最中、アシュレイは閃いた。
学校つくってそこに淫魔達通わせれば、大変オイシイシチュエーションで致すことができるのでは、と。
基本、淫魔達は1日中、ヤッて過ごしている。
別に学校に通わせても問題ない。
問題は誰が教師をやるか、ということだ。
「……ちょうどいいのがいるわ」
テレジアに仕込んでもらって、メイドの真似事をしてもらえば労働力の確保にもなる。
一石二鳥だ。
「今日はいい日かもしれない」
そう呟き、アシュレイは上機嫌で食事を進めたのであった。
食堂にいた淫魔達とついでにテレジアとテリアナも足腰立たなくした後、アシュレイはドレミと共に散歩に出ていた。
今、彼女達は現実空間での地獄の荒野を疾駆していた。
ドレミはその背にアシュレイを乗せて。
手綱も何もないが、魔法という便利なものがある。
それを使い、アシュレイはドレミの背中に寝転がっていた。
ドレミの体毛はもふもふとしているわけではないが、それでも寝転がるにはちょうどいい感触だ。
ご主人様との散歩が嬉しいドレミは張り切って、ジャンプしたり宙返りしたりするのだが、アシュレイは落ちたりしない。
彼女はドレミのはしゃぎっぷりに微笑んでしまう。
時折、走るドレミの背中を撫でてやれば彼女達は気持ちいいのか、青銅のような鳴き声を発する。
アシュレイはその鳴き声が好きであった。
「現代で例えるなら……掃除機が吸引するときの音かしらね。ぎゅいーん、じゃなくてぎゅうううんって感じの」
意外としっくりとくる表現にアシュレイは満足げな顔。
「ドレミ、そろそろ遊ぼうか」
ぽんぽん、とドレミの背中を叩いてストップを指示する。
その指示にドレミはすぐに止まる。
その背中からアシュレイは降り、ドレミの前へと。
「おいでおいで」
アシュレイの手招きにドレミはその首を彼女の体に押し付ける。
体は勿論、首もわりと大きいのだが、アシュレイはビクともしない。
首を受け止めて、1つずつ、丁寧にその頭や顎の下を撫でてやる。
気持ちいいのか、目を細めて小さく鳴く彼女達がアシュレイは可愛くて仕方がなかった。
「お腹撫でてあげるー」
アシュレイの言葉にドレミはひっくり返ってその大きなお腹を見せる。
それぞれの頭は息遣い荒く、舌を出している。
その様子に彼女はくすくすと笑い、彼女達のお腹に手をあて、ゆっくりと撫で始める。
ぷにぷにとした柔らかで暖かい感触にアシュレイもまたいい気持ちになる。
それから数分程、彼女は撫でていたが、我慢できなくなりそのお腹に体を預けてしまう。
ウォーターベッドのような感触と程よい暖かさにアシュレイの瞼がゆっくりと閉じていく。
ドレミはそれを見、体を少し内側へ折り曲げ、アシュレイを自らの体で守るようにする。
そして、ドレミもまたゆっくりとその瞼を閉じたのであった。
「ん……」
アシュレイが目を開けるとそこは見慣れた自室の天井であった。
覚醒する頭、記憶はドレミのお腹で眠ったところで途切れている。
「起きられましたか?」
アシュレイが視線を動かし、声の主を捉え、その名を呼ぶ。
「エシュタル」
「はい。そろそろ湯浴みを……」
「ああ……あなたが運んでくれたの?」
「はい」
「ありがとねー」
「はい……!」
アシュレイはベッドから起き上がり、ふよふよと宙を浮かぶ。
「今日の当番は?」
「私とディアナです。今日はどちらになさいますか?」
「大人モードで」
アシュレイの言葉にエシュタルは頷くと、その体がみるみる変化していく。
そして、数秒と経たずに彼女は大人となった。
ディアナと同じか、もしかしたらそれよりも大きい胸。
肉感的な太もも。
アシュレイはごくり、と思わず唾を飲み込んだ。
「久しぶりですね……この姿は」
「しばらく、そっちでもいいわね……」
エシュタルの大人形態は久しぶりに見るととても新鮮であった。
「エシュタル、抱っこ」
「はい、アシュ様」
アシュレイの言葉にエシュタルは優しく、主の体を抱きしめる。
落とさぬようしっかりと固定し、エシュタルとアシュレイは浴場へと向かったのであった。
その後、浴場において、ディアナを交えたとても大変なことが行われたのは言うまでもないことであった。