ある晴れた日のこと。
加速空間内にある海辺でのんびりとパラソルの下、リリスとリリムからマッサージを受けていたアシュレイ。
そんな彼女はふと呟いた。
「私ってどんくらい強いの?」
これが始まりであった。
「で、私を呼んだのかね?」
「うん」
「私もそれなりに忙しいのだが」
「いいじゃないの。たまには息抜きも必要よ。それにまだ授業は残ってるじゃないの」
アシュレイへの授業は最近、アシュタロスの事情により行われておらず、定期的に送られてくる課題をやるだけで、あとは自習であった。
手抜きと思われるかもしれないが、実際のところ必要な箇所は既に終わっており、あとは発展的なものばかりだ。
それらは自分で実践・実験して結果を考察する、というものがほとんどであった。
「まあ、いいだろう。少し待ちたまえ」
アシュタロスはそう告げ、何やら紙に書き始めた。
アシュレイはわくわくとその様子を見ている。
そして、数分と経たずにアシュタロスはその紙を彼女に渡した。
「……あら、意外と上ね」
むふふ、と笑うアシュレイ。
「私の世界での神族・魔族を基準に考えている。こっちではどうなるかわからないが、参考にはなるだろう。ああ、言うまでもないが、あくまでそこに書いてあるのは魔力の多寡であって、実際の戦闘力ではないからな」
さすがのアシュタロスも未知数のアシュレイの戦闘力を定義することはできない。
ともあれ、そこに書かれていた順番は非常に大雑把だが、一応アシュレイを満足させるものであった。
『ヤッさん>サッちゃん=キーやん>魔王=主神>>魔神=アシュレイ>>上級魔族・上級神族=熾天使>>中級魔族・中級神族>>>下級魔族・下級神族>人間の中で特に優秀な者』
「ヤッさんって誰?」
見慣れぬ名前に問いかけるアシュレイにアシュタロスは驚く。
「知らないのかね? YHVHだ」
その名の持つ強烈な言霊にアシュレイは思わず身を震わせた。
とんでもない力を持った存在であることがうかがい知れる。
「なるほどね……だからヤッさんか」
「我々クラスでも身を震わせるレベルの方だからな。だからヤッさんなのだ」
「で、とりあえず私ってもう魔神を名乗っていいかしら?」
「いいのではないかね。魔力も知識も十分だろう」
「もうアシュタロスを名乗ってもいいかしら?」
「いいのではないかね? まあ、現状とあまり変わらない気もするが」
テレジア以下の従者達も部下達もアシュ様と彼女を呼ぶ。
変わるとしたら、アシュレイ自身の気の持ち方くらいだろう。
「それに君はアシュレイで長いこと過ごしていたからな。最終的にはアシュレイ=イシュタル=アシュタロス、と名前が3つある状態になる。どれもが君を指し示す言葉だ」
「ホントに変わらないのね」
「そういうものだ」
その後、アシュレイは久しぶりにアシュタロスの授業を受け、彼と近況報告や自らの魔眼について意見交換をし、自らの世界へと帰る彼を見送った。
一応、彼女の疑問は解決したのだが、今度は実際に試してみたくなる。
ヘルマンとのことは戦いのうちには入らない。
とはいえ、あんまり派手に暴れると今度はいらぬところから目をつけられることになる。
まだまだ彼女の軍団は発展途上だ。
どうしたものか、と考えながらアシュレイは屋敷の廊下を歩いていた。
「アシュ様、どうしたポヨか?」
通りかかったニジがそんなアシュレイに声を掛けた。
「ああ、ニジ。私の強さが分かったところなんだけども」
「強さポヨ?」
「うん。で、どうにかその力をふるってみたい、とそう思うの」
「ポヨヨ。アシュ様が全力を出したら、魔王達がやってくるポヨ。アシュ様自身は大丈夫とはいえ、他が駄目になるポヨ」
一応、アシュレイはベアトリクスとシルヴィアの部下集めにより、部下にした魔族達から没収したことで広大な領地と膨大な財宝を得ている。
とはいえ、それは未だ地獄ではルーキーとはいえ、魔神としてはそれでもまだ足りなかった。
当然、それらの領地を一括して統治する機関の設置や各地への行政官の派遣などなどやることは山積み。
神族や魔族といえど、こういうところは人間の国家と対して変わらない。
そんな状態で魔王達と戦争なんてしたら全てがご破算となってしまう。
「じゃあどうしようか?」
「私達の調査によればアシュ様は魔族にしては珍しく性欲が強いポヨ。思うに、魔族としてあって当然の破壊欲などは全て性欲に転化されている筈ポヨ。つまり、性欲を発散すればいいポヨ」
「いつも通りやってるのだけども」
「アシュ様の力は日々増大しているポヨ。それに伴って破壊欲も徐々に大きくなるポヨ。性欲も比例して大きくなるポヨから、今まで以上に発散しないと駄目ポヨ」
なるほど、と頷くアシュレイ。
そして、思う。
キーやんとかサッちゃんが自分を絶倫にしたのは破壊欲を性欲に転化する為の措置であったのかもしれない、と。
「あなたで発散してもいいのかしら?」
アシュレイの言葉にニジは驚き、ついで戸惑い、最後に顔を赤くして俯いた。
その初々しい反応がアシュレイにはたまらない。
ニジの父親は力を蓄えつつあるアシュレイについて調べ、長女であるニジを差し出せばアシュレイが性的な意味で彼女に手を出してくることは容易に想像がついた。
父親として非常に不安であるが、アシュレイの性格的にそこまで酷いことはされないだろう、と予測を立て、ニジを送り出していた。
無論、ニジ本人に手を出されるだろうことを伝えた上で。
そういうわけで、立場的にも力関係的にも逆らうことも拒否することもできないニジは、仕方がないので開き直ることにした。
すなわち、彼女は情事を存分に楽しんでやるという気持ちだ。
もっとも、やはり恥ずかしいし若干の不安から、言葉が口から零れ出る。
「覚悟は……できているポヨ……でも、優しくして欲しいポヨ……」
「勿論、優しくするわ……ええ、勿論ね」
怪しい笑みを浮かべたアシュレイはニジをお姫様抱っこして、そのまま自室へ直行したのであった。
一方その頃――
「ふむ……よく食べますね。いいことです」
ベアトリクスはそう言い、ドレミの大きな体をブラッシングする。
ドレミは気持ちいいのか、餌を食べるのをやめ、青銅のような鳴き声を出す。
ベアトリクスはどこを気に入ったのか、暇を見つけてはドレミの世話をしていた。
アシュレイもそれを認めており、すっかりその世話係となっている。
ドレミ専用の犬小屋――とはいっても、その大きさはちょっとした倉庫並――にて、ベアトリクスは今日も世話をしていた。
「今日も良い毛並みです」
手触りの良い、黒い体毛にベアトリクスは思わず笑みを零す。
一応、犬と戯れる少女ということで絵画の題材にでも使えそうだが、何分、戯れている犬がケルベロスだ。
事情を知らぬ者からすればシュールな光景であることは間違いない。
「ベアトリクス殿」
背後から呼ぶ声が。
彼女が振り返ればそこにはヘルマンが立っていた。
色々な意味で名前が売れた彼は何かと連絡役をやらされている。
なお、ヘルマンは敬語には慣れていないが、それでも上司ということでアシュレイ以外には殿をつけることとなっていた。
「シルヴィア殿が呼んでいる」
「そうか。今行く」
ベアトリクスはドレミの3つの頭を1つ1つ優しく撫でた後、彼と共にその場を後にした。
誰もいなくなった犬小屋でドレミは1度吠えた。
するとみるみるうちに数mはあったドレミの体が縮んでいく。
あっという間にケルベロスが人間の女性となった。
ただし、その頭は3つあり、それぞれの頭には犬耳、お尻には尻尾がくっついている。
ベアトリクスに撫でられるのは彼女達にとって気持ちが良いことだが、飼い主であるアシュレイには最近、遊んでもらっていない。
そんなわけで、ちょっとだけストレスが溜まっている彼女達は人型となり、アシュレイの下に行ってみよう、という作戦だ。
「アシュ様に頭撫でてもらってー」
「交尾してもらってー」
「一緒に寝たいー」
願いは非常に動物的であった。
ケルベロスはどう言い繕っても、でっかくてちょっと強い犬でしかないのでしょうがないといえばしょうがない。
ともあれ、ドレミの発言からアシュレイは雌もしくは両性具有であれば何でもいける口らしかった。
ドレミが小屋から出発した頃、エシュタルは悩んでいた。
屋敷の厨房。その真ん中で。
「……料理とはかくも難しいものなのか」
彼女の手元には屋敷の図書室になぜかあった料理の本。
勿論、アシュタロスの蔵書であるので未来に書かれるだろう本だ。
何故、彼女が急に料理を始めようと思ったかといえば、ある本に書かれていたからだ。
料理は好きな相手の好感度を上げる秘密のアイテムである、と。
そんなわけで敬愛するアシュレイの為にエシュタルは料理をつくろうと思ったのであった。
そもそも魔族に食事は必要なく、単なる嗜好に過ぎないのだが、こういうのは気持ちであった。
「難しいのかしら……? 素材さえ手に入れば簡単なのだとは思うけど……」
そんなエシュタルの横でディアナは別の料理本を眺めている。
「だが、ディアナ。我々には知らないものばかりだ。きゅうり? なす? レタス? キャベツ? 地獄は勿論、地上にもないぞ。神界にあるものなのか?」
「さすがに神界にあるものが人間の料理本に出てくるわけないでしょう」
「いや、わからんぞ。神族達が未来において広めたのかもしれない」
エシュタルの言葉も一理あるので、ディアナは悩む。
2人揃って悩んでいる様をテレジアはじっと物陰から見つめていた。
「……その素材達について調べてみればいいのではないだろうか……」
そう彼女は小声で呟いたが、悩んでいる2人が面白かったのでもう少し堪能することにしたのだった。
加速空間内にある海辺でのんびりとパラソルの下、リリスとリリムからマッサージを受けていたアシュレイ。
そんな彼女はふと呟いた。
「私ってどんくらい強いの?」
これが始まりであった。
「で、私を呼んだのかね?」
「うん」
「私もそれなりに忙しいのだが」
「いいじゃないの。たまには息抜きも必要よ。それにまだ授業は残ってるじゃないの」
アシュレイへの授業は最近、アシュタロスの事情により行われておらず、定期的に送られてくる課題をやるだけで、あとは自習であった。
手抜きと思われるかもしれないが、実際のところ必要な箇所は既に終わっており、あとは発展的なものばかりだ。
それらは自分で実践・実験して結果を考察する、というものがほとんどであった。
「まあ、いいだろう。少し待ちたまえ」
アシュタロスはそう告げ、何やら紙に書き始めた。
アシュレイはわくわくとその様子を見ている。
そして、数分と経たずにアシュタロスはその紙を彼女に渡した。
「……あら、意外と上ね」
むふふ、と笑うアシュレイ。
「私の世界での神族・魔族を基準に考えている。こっちではどうなるかわからないが、参考にはなるだろう。ああ、言うまでもないが、あくまでそこに書いてあるのは魔力の多寡であって、実際の戦闘力ではないからな」
さすがのアシュタロスも未知数のアシュレイの戦闘力を定義することはできない。
ともあれ、そこに書かれていた順番は非常に大雑把だが、一応アシュレイを満足させるものであった。
『ヤッさん>サッちゃん=キーやん>魔王=主神>>魔神=アシュレイ>>上級魔族・上級神族=熾天使>>中級魔族・中級神族>>>下級魔族・下級神族>人間の中で特に優秀な者』
「ヤッさんって誰?」
見慣れぬ名前に問いかけるアシュレイにアシュタロスは驚く。
「知らないのかね? YHVHだ」
その名の持つ強烈な言霊にアシュレイは思わず身を震わせた。
とんでもない力を持った存在であることがうかがい知れる。
「なるほどね……だからヤッさんか」
「我々クラスでも身を震わせるレベルの方だからな。だからヤッさんなのだ」
「で、とりあえず私ってもう魔神を名乗っていいかしら?」
「いいのではないかね。魔力も知識も十分だろう」
「もうアシュタロスを名乗ってもいいかしら?」
「いいのではないかね? まあ、現状とあまり変わらない気もするが」
テレジア以下の従者達も部下達もアシュ様と彼女を呼ぶ。
変わるとしたら、アシュレイ自身の気の持ち方くらいだろう。
「それに君はアシュレイで長いこと過ごしていたからな。最終的にはアシュレイ=イシュタル=アシュタロス、と名前が3つある状態になる。どれもが君を指し示す言葉だ」
「ホントに変わらないのね」
「そういうものだ」
その後、アシュレイは久しぶりにアシュタロスの授業を受け、彼と近況報告や自らの魔眼について意見交換をし、自らの世界へと帰る彼を見送った。
一応、彼女の疑問は解決したのだが、今度は実際に試してみたくなる。
ヘルマンとのことは戦いのうちには入らない。
とはいえ、あんまり派手に暴れると今度はいらぬところから目をつけられることになる。
まだまだ彼女の軍団は発展途上だ。
どうしたものか、と考えながらアシュレイは屋敷の廊下を歩いていた。
「アシュ様、どうしたポヨか?」
通りかかったニジがそんなアシュレイに声を掛けた。
「ああ、ニジ。私の強さが分かったところなんだけども」
「強さポヨ?」
「うん。で、どうにかその力をふるってみたい、とそう思うの」
「ポヨヨ。アシュ様が全力を出したら、魔王達がやってくるポヨ。アシュ様自身は大丈夫とはいえ、他が駄目になるポヨ」
一応、アシュレイはベアトリクスとシルヴィアの部下集めにより、部下にした魔族達から没収したことで広大な領地と膨大な財宝を得ている。
とはいえ、それは未だ地獄ではルーキーとはいえ、魔神としてはそれでもまだ足りなかった。
当然、それらの領地を一括して統治する機関の設置や各地への行政官の派遣などなどやることは山積み。
神族や魔族といえど、こういうところは人間の国家と対して変わらない。
そんな状態で魔王達と戦争なんてしたら全てがご破算となってしまう。
「じゃあどうしようか?」
「私達の調査によればアシュ様は魔族にしては珍しく性欲が強いポヨ。思うに、魔族としてあって当然の破壊欲などは全て性欲に転化されている筈ポヨ。つまり、性欲を発散すればいいポヨ」
「いつも通りやってるのだけども」
「アシュ様の力は日々増大しているポヨ。それに伴って破壊欲も徐々に大きくなるポヨ。性欲も比例して大きくなるポヨから、今まで以上に発散しないと駄目ポヨ」
なるほど、と頷くアシュレイ。
そして、思う。
キーやんとかサッちゃんが自分を絶倫にしたのは破壊欲を性欲に転化する為の措置であったのかもしれない、と。
「あなたで発散してもいいのかしら?」
アシュレイの言葉にニジは驚き、ついで戸惑い、最後に顔を赤くして俯いた。
その初々しい反応がアシュレイにはたまらない。
ニジの父親は力を蓄えつつあるアシュレイについて調べ、長女であるニジを差し出せばアシュレイが性的な意味で彼女に手を出してくることは容易に想像がついた。
父親として非常に不安であるが、アシュレイの性格的にそこまで酷いことはされないだろう、と予測を立て、ニジを送り出していた。
無論、ニジ本人に手を出されるだろうことを伝えた上で。
そういうわけで、立場的にも力関係的にも逆らうことも拒否することもできないニジは、仕方がないので開き直ることにした。
すなわち、彼女は情事を存分に楽しんでやるという気持ちだ。
もっとも、やはり恥ずかしいし若干の不安から、言葉が口から零れ出る。
「覚悟は……できているポヨ……でも、優しくして欲しいポヨ……」
「勿論、優しくするわ……ええ、勿論ね」
怪しい笑みを浮かべたアシュレイはニジをお姫様抱っこして、そのまま自室へ直行したのであった。
一方その頃――
「ふむ……よく食べますね。いいことです」
ベアトリクスはそう言い、ドレミの大きな体をブラッシングする。
ドレミは気持ちいいのか、餌を食べるのをやめ、青銅のような鳴き声を出す。
ベアトリクスはどこを気に入ったのか、暇を見つけてはドレミの世話をしていた。
アシュレイもそれを認めており、すっかりその世話係となっている。
ドレミ専用の犬小屋――とはいっても、その大きさはちょっとした倉庫並――にて、ベアトリクスは今日も世話をしていた。
「今日も良い毛並みです」
手触りの良い、黒い体毛にベアトリクスは思わず笑みを零す。
一応、犬と戯れる少女ということで絵画の題材にでも使えそうだが、何分、戯れている犬がケルベロスだ。
事情を知らぬ者からすればシュールな光景であることは間違いない。
「ベアトリクス殿」
背後から呼ぶ声が。
彼女が振り返ればそこにはヘルマンが立っていた。
色々な意味で名前が売れた彼は何かと連絡役をやらされている。
なお、ヘルマンは敬語には慣れていないが、それでも上司ということでアシュレイ以外には殿をつけることとなっていた。
「シルヴィア殿が呼んでいる」
「そうか。今行く」
ベアトリクスはドレミの3つの頭を1つ1つ優しく撫でた後、彼と共にその場を後にした。
誰もいなくなった犬小屋でドレミは1度吠えた。
するとみるみるうちに数mはあったドレミの体が縮んでいく。
あっという間にケルベロスが人間の女性となった。
ただし、その頭は3つあり、それぞれの頭には犬耳、お尻には尻尾がくっついている。
ベアトリクスに撫でられるのは彼女達にとって気持ちが良いことだが、飼い主であるアシュレイには最近、遊んでもらっていない。
そんなわけで、ちょっとだけストレスが溜まっている彼女達は人型となり、アシュレイの下に行ってみよう、という作戦だ。
「アシュ様に頭撫でてもらってー」
「交尾してもらってー」
「一緒に寝たいー」
願いは非常に動物的であった。
ケルベロスはどう言い繕っても、でっかくてちょっと強い犬でしかないのでしょうがないといえばしょうがない。
ともあれ、ドレミの発言からアシュレイは雌もしくは両性具有であれば何でもいける口らしかった。
ドレミが小屋から出発した頃、エシュタルは悩んでいた。
屋敷の厨房。その真ん中で。
「……料理とはかくも難しいものなのか」
彼女の手元には屋敷の図書室になぜかあった料理の本。
勿論、アシュタロスの蔵書であるので未来に書かれるだろう本だ。
何故、彼女が急に料理を始めようと思ったかといえば、ある本に書かれていたからだ。
料理は好きな相手の好感度を上げる秘密のアイテムである、と。
そんなわけで敬愛するアシュレイの為にエシュタルは料理をつくろうと思ったのであった。
そもそも魔族に食事は必要なく、単なる嗜好に過ぎないのだが、こういうのは気持ちであった。
「難しいのかしら……? 素材さえ手に入れば簡単なのだとは思うけど……」
そんなエシュタルの横でディアナは別の料理本を眺めている。
「だが、ディアナ。我々には知らないものばかりだ。きゅうり? なす? レタス? キャベツ? 地獄は勿論、地上にもないぞ。神界にあるものなのか?」
「さすがに神界にあるものが人間の料理本に出てくるわけないでしょう」
「いや、わからんぞ。神族達が未来において広めたのかもしれない」
エシュタルの言葉も一理あるので、ディアナは悩む。
2人揃って悩んでいる様をテレジアはじっと物陰から見つめていた。
「……その素材達について調べてみればいいのではないだろうか……」
そう彼女は小声で呟いたが、悩んでいる2人が面白かったのでもう少し堪能することにしたのだった。