「はぁ……いいわ」
珍しく大人形態になってベッドの上に寝転がっているアシュレイ。
そんな彼女の体をマッサージしているリリスとリリム。
結局、アシュレイの決定によりリリスが代表でリリムが補佐となった。
勿論、2人で淫魔達全員に奉仕をさせた。
その際、人間が見ると色々な意味で毒となることが繰り広げられてたのだが、そこは割愛する。
「アシュ様の御身体、大人のときはより美しいです」
リリムはマッサージの手をやめ、すりすりとアシュレイの背中に頬擦りする。
シミ一つない張りのある白い肌は淫魔達から見ても極上のものであった。
「アシュ様、舐めていい?」
「むしろ舐めなさい」
アシュレイの返事に喜んで彼女の体をペロペロと舐めていくリリス。
「親子丼って本当にいいものだわ……」
アシュレイは満足であった。
「あなたも少しは慣れた?」
彼女はそう声を掛ける。
その相手は下級魔族の少女、テリアナ。
「あ、えと、はい……」
何故か顔を赤くしてそう答えた。
その反応から、彼女が既にアシュレイに美味しく頂かれているのは言うまでもなかった。
彼女、テリアナはメイド見習いとしてテレジアの厳しい指導がなされていた。
今回、アシュレイの傍にいるのもメイドとしてのテストの一環だ。
色々な意味で初々しい反応がアシュレイとしては実に良かった。
「うんうん、いいことだわ」
彼女は起き上がり、おいでおいでとテリアナを呼ぶ。
おずおずと近寄ってくる彼女、その紫色の髪をアシュレイは触り、触感を楽しむ。
そして、その頭を撫で始める。
一応、彼女はまだ修行中なのだが……時間は腐る程あるのでのんびりやっても大丈夫なのだ。
とはいえ、既にあの10万とか100万とかいうページ数の教科書は10分の7程度、終わっている。
そろそろアシュレイ自身としても、エシュタルに勉強を直接教えようかなと思い始めていた。
そのときであった。
エシュタルがやってきたのは。
「アシュ様、少々わからないところが……」
ノートと鉛筆持ってやってくる子供……もっと言えば幼女なエシュタルにアシュレイの頬は一瞬で緩む。
「この周波数伝達関数なんですが……」
差し出されたノート、そこにある無数の数式。
人類が将来的に発見するものや発見していないものなど種類は様々だ。
「ああ、それはこっちのヤツを微分して、この三つの七次方程式に代入して、最後にsを求めれば出るわ」
なるほど、と頷くエシュタル。
そうしている間にもアシュレイはテリアナの頭を撫でる手を止めてはいない。
「ありがとうございました」
エシュタルはお辞儀して部屋を辞した。
「んー悪魔って最高ー! 悪魔でよかった!」
今度はテリアナを抱きしめて頬擦りし始めるアシュレイ。
抱きしめられているテリアナを羨ましそうに見つめるリリスとリリム。
「というか、テリアナだけしか私の新しい部下がやってこないってどういうことなの」
抱きしめるのをやめて、シルヴィアとベアトリクスを呼び出す。
数秒と経たずに現れる2人。
「ああ、そういえば今まで2人とかって数えていたけど、2柱とするべきかしら……? まあ、どうでもいいか」
そんなアシュレイの独白に首を傾げる周囲の面々。
「で、シルヴィア、ベアトリクス。新しい子は?」
アシュレイの問いかけに言葉を詰まらせる2人。
希望者がいませんなどとは口が裂けても言えない。
「アシュ様、強硬手段に出てもよろしいですか?」
ベアトリクスの問いにはてな、と首を傾げるアシュレイ。
彼女としては強硬手段も何も、2人がどんな方法で部下を集めようとしていたのか知らない。
魔族らしい集め方ではないか、という予想はできるが、実際は求人広告出してました、なんてことはさすがのアシュレイも予想できない。
故に彼女は聞いてみた。
「どういう集め方していたの?」
「これを」
差し出されたのは一枚の広告。
その内容を見、アシュレイは爆笑の渦に包まれた。
部屋に彼女の笑い声が響き渡る。
「アシュ様、見せていただいてもよろしいですか?」
リリムの言葉にアシュレイは笑いながらその広告を渡す。
リリムと、横から覗き込んだリリスは内容を読み、アシュレイと同じように笑った。
そんな3人にシルヴィアはしょんぼり、と肩を落とす。
いいアイディアだと思ったのに、と。
それを見たアシュレイは笑いを深呼吸することで抑えて、テリアナを放し、シルヴィアを呼ぶ。
近寄ってきたシルヴィアを屈ませ、その頭をアシュレイは撫で始めた。
「いい子いい子」
撫でられてシルヴィアは元気が出たのか、それとも単純に嬉しいのか、笑みをその顔に浮かべる。
「もう魔族的に強そうなヤツを半殺しにして拉致ってきなさい」
ベアトリクスは頷くが、その視線はシルヴィアから離れない。
その意図を察したアシュレイは彼女を呼ぶ。
近くに寄ってきた彼女をやっぱり屈ませ、もう一方の手で頭を撫で始めた。
「うふふふ、やっぱり悪魔って最高だわ……」
魂の牢獄や永遠の悪役など重いこともあるが、割りきってしまえば天国だ、とアシュレイは判断していた。
「さて、これからどうしようか……? とりあえず、4人纏めて久しぶりに大人の体で味わおうかしらね」
そのとき、アシュレイの頭にサッちゃんの声が響いた。
『元気しとるようやな? わいからのプレゼントで大人形態のときは本家の淫魔も吃驚な色気っちゅーか、淫気やな? それが出せるようにしたるさかい。存分に楽しんでやー』
それと同時に彼女の体から目に見えない何かが出始めた。
それを間近で浴びた5人は息遣い荒く、その瞳を潤ませる。
「……サッちゃん、いい仕事するわ……」
武器などよりも、アシュレイ的にはいいものであった。
「とりあえず、激しくいくか……!」
「ああ、暇だわ……」
一方その頃、ディアナは暇であった。
鍛錬するとしても、24時間ずっとやっているというのは悪魔といえど精神的に疲れるし、何よりつまらない。
しかし、娯楽も何もないので暇となる悪循環。
ふよふよと宙を漂いながら暇潰しを探す彼女。
「何かいい暇潰しはないかしらね」
そんな彼女はノートを持ったエシュタルを見つけた。
ああ、これはいい暇潰しだ、とディアナは彼女を見て、あることを思いついた。
「エシュタル、暇だから何かしない?」
「私は忙しいのだ」
「いいじゃない。同僚のよしみで暇潰しに付き合ってよ」
「断る」
取り付く島もないエシュタルにディアナは強硬手段に出る。
「それじゃ、あなたがアシュ様の写真を多数保有していることをアシュ様に教えてしまおうかしら?」
エシュタルはその言葉の意味を理解するのに数秒を要し、ついで硬直した後、顔を真っ赤にした。
「何で知っている!」
叫ぶ。
「暇だったので、つい」
「暇だから人の部屋を漁るのか!」
「悪魔なので」
ああ言えばこう言うディアナにエシュタルは溜息一つ。
「幸せが逃げるわよ? 溜息なんて吐くと」
「誰のせいだ」
「悪魔のせいね。怖い怖い」
もう一度溜息を吐くエシュタル。
彼女は観念したかのように告げる。
「わかった。お前の暇潰しに付き合ってやるから、さっさと要件を言え。何か考えてあるんだろう?」
「あら悪いわね」
「ああ悪いな。そのでかい乳を心臓ごと抉り取ってを食らってやりたいくらいには」
「アシュ様ならいいけど、何であなたにやらせないといけないのよ」
「もういいからさっさと言え」
「それじゃ遠慮なく……何か、暇潰しできることない?」
「死ね。100万回死ね」
「じゃあ100万と1回蘇るわ」
「もう知らん! アシュ様に言いたければ言え!」
エシュタルはそう怒鳴ってその場を後にした。
彼女が去った後、ディアナは呟く。
「ああ、少しはいい暇潰しになったわ。でも暇ねー」
どうしたものか、と考え、淫魔と戯れようかしら、と思いつく。
「でも、それも気分じゃないしー」
ディアナはふよふよと宙を漂いながら、エシュタルとは逆の方向へ行った。
すなわち、アシュレイの部屋へと。
「アシュ様、今、よろしいです……か?」
ディアナはアシュレイの部屋に入って後悔した。
無数の淫魔達があちこちに倒れており、ベッドの上にはベアトリクスやシルヴィア、そしてテリアナなども倒れている。
鼻をつく強烈な情事特有の臭い。
「……?」
しかし、アシュレイは部屋の中にはいなかった。
ディアナは屋敷全体を魔法でもって探査すると、地下実験場にアシュレイの反応を発見する。
何やら忙しそうだ、と彼女は主の邪魔をしないが為にアシュレイと会うことを諦める。
「ああ、ちょうどいいところにいた」
背後からそんな声が。
振り向けばそこにはテレジアの姿。
その手にはぞうきんやらモップやらバケツやらの掃除道具を色々持っている。
それだけならいいが、わざわざ彼女が気配を消してディアナに近づいたところが不自然であった。
嫌な予感を感じるディアナ。
そんな彼女にテレジアはにっこりと笑みを浮かべて、彼女の両肩をガシッと掴んだ。
「暇か? 暇だな? 暇だろう。アシュ様の部屋を掃除するから手伝え」
「え、やだ。めんどうくさい」
「問答無用」
こうしてディアナはテレジアと共にアシュレイの部屋の掃除をすることになった。
悪魔達の暇潰し……というよりか、日常はわりと普通のようであった。