「まあ、妥当な判断かしらね」
神界からの今回の一件に対してのケジメとしての要請、それをサッちゃんは受け、アシュレイもまた受けた。
その要請とはしばらく地上に手を出さずに大人しくしてろ、とそういうものであり、また結婚式の延期であった。
おかげでアシュレイはほいほい地上に出かけることができなくなってしまい、千奈達に会えなくなってしまった……というわけでもない。
神界からの要請は大人しくしていろ、というものであり、争乱を起こさねばほいほい出かけても問題ない、とそういう風に判断した。
人間なら遠慮するところだが、問題ない、としてしまう悪魔的判断である。
こじつけ甚だしいが、そういうのが悪魔であるから問題はないのだ。
そんなアシュレイは現在、フレイヤと連戦をベッドの上で繰り広げた後、のんびりとしていた。
千奈達には悪いが、嫁と言っても過言ではないフレイヤとたまにはのんびりしたいのである。
「……しかし本当にやることがないわね」
のんびりしたいと暇であることはイコールで結べない。
フレイヤが疲れて寝てしまった現在、アシュレイがやることといえば寝ている彼女に悪戯するか、寝ている彼女の横で他の女を抱くか。
それくらいしかなかったりする。
ふむ、とアシュレイは考え、両方行うことにした。
すなわち、悪戯しているところを他の女に見せつけつつ、その後に抱くのである。
「ジャンヌ・ダルクはまだか……」
そろそろ新しい女をもってこないと、と思うアシュレイであった。
永遠の命、強大な力、人類を超越した叡智。
およそ人が欲しいと望むものを全て手に入れた彼女にとって、一番の敵は退屈であることだった。
「そういや、テレジアが淫魔が足りないって言ってたから、繁殖させることだけを専門とした新たな種族を作りましょうか」
淫魔に対してはあくまで天然物――すなわち、誰かの手により改良された物ではない――に拘るアシュレイだ。
妙な拘りであるが、アシュレイ的には元々忠誠を刷り込んでいない種族が敢えて自分に忠誠を誓ってくれている、という優越感とかそういったものに浸りたいのである。
そもそも彼女が色々な種族を作っているのは必要であったから、という理由は当然として、自然発生的に出てこないから、というものもある。
そしてどうせ作るなら最初から忠誠刷り込んでおいた方が楽である、とそういうことであった。
ともあれ、アシュレイはさながら折り紙で鶴でも折るような気楽さで神の所業を行っていく。
宗教関係者が見たら卒倒すること間違いない。
どうせならと彼女は拘り、今まではマトモな人間の姿であったが、一捻りし、畸形に走ることとした。
パッと見は人間であるが、実は……という感じだ。
やっていることは神の所業であるが、その内容はまさに悪魔。
数時間後、アシュレイはやっぱり暇になっていた。
フレイヤは起きたものの、何だか抱く気にはなれない。
飽きたとかそういう深刻な問題では勿論ない。
アシュレイはフレイヤの豊満な胸に頭を預けつつ、彼女に自らの胸をまさぐらせる。
フレイヤの手つきたるや凄まじく、アシュレイに容赦なく快感を与えていた。
一見すれば再び情事突入であるが、このくらいはただのじゃれあいに過ぎない。
故にテレジアが報告にやってきても何も問題はなく、やってきた彼女にアシュレイがワガママを言うのもまた問題がなかった。
「テレジア、私の使い魔としてこの暇を解消する術を提示しなさい」
何とも無茶な要求である。
三界一の頭脳と称されるアシュレイをもってしても、解決できない問題をただの使い魔に過ぎないテレジアがどうにかできるわけがない。
しかし、伊達に彼女の使い魔を億年単位でやっているテレジアではない。
「恒久的解決法ではなく、一時的解決法ならば幾つかございます」
「聞きましょう」
「アシュ様がどれだけ凄いか、人間界にもっと広めても良いのでは? 直接的手段ではなく、地獄でも発行されているアシュ様について書かれたものを纏め、人間が読めるよう翻訳し、それを人間達に広めればそのご威光は地上にあまねく広まるかと」
「でも、それはあなた達がやる仕事ではなくて?」
アシュレイの問いにテレジアは動じることなく頷き、ですが、と続ける。
「それはあくまで第三者が書いたもの。アシュ様ご自身の手で手記などを書かれては……」
「……私の生を書こうと思ったら、万のページでは足りないのだけど」
「アシュタロスの生き様 全100万巻」とかそういったレベルになってしまうだろう。
全部読めるのは人間を止めている連中しかいない。
「故に提案します。原案はアシュ様で私が絵図にするという形にすれば無知蒙昧な人間にも分かりやすくなるかと」
「漫画?」
「はい、漫画です」
「それでいいわ。枷のときにでも寝物語で聞かせてあげる」
テレジアはその言葉に嬉しそうに頷き、さらに言葉を紡ぐ。
「そろそろ闇の福音計画に本腰をいれられても良いのでは?」
「吸血鬼の準備は確かに整ったわね」
そう言いつつ、自身の造り出した吸血鬼の纏め役を思い浮かべる。
ちょっと調子に乗っているという報告にアシュレイはその彼女をぶちのめした後に性的な意味でもぶちのめしていたりする。
おかげで前よりは傲慢でなくなって、アシュレイ的にはちょうどいい感じとなっていた。
「でも、それも私が直接やることではないわ」
「はい、全くその通りです。ですので、そこによって生まれる副次効果を期待しては?」
テレジアの言葉でアシュレイはすぐに分かった。
「敢えて経済的困窮を作り出し、身売りの女を大量に安く買い上げる」
「アシュ様によりメスとしての喜びを仕込まれることは幸福でしょう」
「問題ないわね。新しいものが入るのはいいことよ」
他にはないか、とアシュレイが尋ねればテレジアはなおも言葉を紡ぐ。
「魔法界へ赴き、住民と戯れるのも一興かと」
「魔法界、魔法界ね」
そういえばそんなのもあったな、と。
地上侵攻作戦やらフレイヤといちゃいちゃすることやら紅葉の一件やらですっかり思考の外であった。
「定期的にセレステから報告を受けておりますが、中々に様々な種族が溢れているそうです。戦争も頻繁に起こっており……」
「適当な戦争孤児でも拾って育て、狂戦士にするのもまた一興か」
「魔法界にある王家を裏から支配するのも良いかと」
テレジアの言葉にアシュレイは頷き、すぐさまセレステを念話で呼ぶ。
彼女は久しぶりの呼び出しに即応し、転移魔法でやってきた。
「お呼びですか、アシュ様」
臣下の礼を取るセレステ――元セクストゥムにアシュレイは鷹揚に頷く。
「魔法界の王家は最新の情報だとどんなもの?」
問いにセレステは打てば響くようにすぐさま答える。
「アシュ様がお作りになられたウェスペルタティア王国、亜人種の国、ヘラス帝国、地球から移住させた人間達のメセンブリーナ連合、学問を国是とするアリアドネー」
「小国は他にもたくさん?」
アシュレイの問いにセレステは頷く。
「まずはじめに言っておくけど、魔法界は私が造り、その所有権やら何やらは私にある。私以外の者が魔法界を潰したり何だりすることは許されないこと」
つまるところ、魔法界とはアシュタロスの協力を経てアシュレイが作った超巨大な箱庭に過ぎない。
「ウェスペルタティアとヘラス、そこを代々女系にしよう。私が孕ませることを認めた者以外がそこの王族の女を孕ませることは禁止しよう」
セレステはその言葉に疑問を抱き、思わず問いかける。
「恐れながらアシュ様。アシュ様ご自身が孕ませにならないのですか?」
セレステは一応、アシュレイが未だかつて子供をつくらない理由を知っている。
それは子供を孕んでいる間、突っ込めなくなるから。
何ともアシュレイらしい理由であるが、よくよく考えれば変な話である。
できないことを数える方が早いアシュレイがその程度の理由で躊躇う。
母体も子供も傷つけずに最上の快感を得る方法くらい知っていそうなものだ。
「別段隠すことでもないけど、最近の神魔族は子供を作らないのが流行っているの。その辺はフレイヤがよく知ってると思うわ」
アシュレイに話題を振られ、フレイヤはその手を止めた。
そう、こうやってアシュレイが話している間もずっと彼女はアシュレイの胸を弄っていたのだ。
そのせいでアシュレイの下半身は凄いことになっていたりする。
「子供による親殺しが一時期多くありましたの。それ故に多くの力ある神々は子供を作ることを忌み嫌うようになりまして」
親殺しで有名なのはゼウスです、と言葉を締めるフレイヤ。
そして、アシュレイが告げる。
「私は未来を見通すことができるからこそ、自身の破滅を回避したいと思う。ならばこそ、子供による破滅を回避する最善の手段は子供を作らないこと。もし気の迷いで孕ませたなら早急に母体ごと処理するわ」
母体ごと、と言うあたりにアシュレイの本気を垣間見ることができるだろう。
だが、セレステは敢えて一歩踏み込んだ。
「自己保身の為……ですか?」
瞬間、テレジアもフレイヤも撤回しろ、と視線でセレステに訴える。
対するアシュレイは特に何も感じてはいなかった。
「それが何か問題でも?」
アシュレイは極々普通に問いかけた。
神々とて腐敗するし、魔王が偽善もするそんなご時世。
自己保身に走るのもまた当然。
「いえ、特には。ただアシュ様をして怖いことがあるのか、と思いました」
セレステからすればアシュレイは到底辿りつけない領域にある至高の領域にいる存在。
神族からは恐怖公と恐れられ、魔族からは英雄として称賛されるそんな彼女に怖いものがあるというのはセレステからすれば十分に驚くことだ。
「私だって怖いものの一つや二つくらいあるのよ。まあ、10個もないんだけど」
それはそれで凄い、とセレステは思ってしまった。
「ともあれ、テレジア。さっきの助言に感謝するわ。あと、セレステ。あなたもご苦労様。このあとは久しぶりに可愛がってあげるわ」
アシュレイは笑みを浮かべてそう言うのであった。