いつも通りの彼女


 アシュレイは京都には戻らず、まだ地獄にいた。
 彼女にはやることが幾つかあったのだ。
 桔梗をアシュレイはさっさと転移魔法で地上へと戻したこともそれらのうち。
 
 唯一の生還者ということで色々聞かれるだろうが、そこはそれ。
 明日菜の名前を出せば里の長も依頼主である分家のリーダーも納得するというもの。

 そして、アシュレイは早速準備に取り掛かった。
 すなわち、自分に忠実な美女美少女吸血鬼造ろうぜ計画である。
 一応、闇の福音計画の為でもあるが、そこらはアシュレイだから性欲に直結するのは仕方がない。

 何だかんだでアシュレイは久しぶりに加速空間に篭る。
 そして、彼女は吸血鬼の設計図を描き始めた。
 もっとも、神魔のバランスの観点からそこまで強力な輩は造れないのであるが、いかんせん、いい加減の手抜きで造ってもアーウェルンクスシリーズやデュナミスのように人間界では最強クラスを造れてしまうのだから性質が悪い。




「種族としての吸血鬼。だけどこの私が造るからには全員真祖。種族的特徴は……」

 ブツブツと呟きながらアシュレイは戦乙女族などを造ったときと同じように設計図を描いていく。
 やがて彼女はその作業を終える。

 さて造るか、と思ったがアシュレイは思いとどまった。
 どうせなら吸血鬼の纏め役として専用の設計図を造った方がいいのではないか、と。
 完全にエロ要員と化している戦乙女族やアマゾネスやメイド種族。
 彼女達は表に出ることなく加速空間で数を大幅に増やしている。
 そんな彼女達とは違い、吸血鬼は表に出る可能性が高い。

「思い立ったら吉日ね」

 アシュレイはおもむろに設計図を描き始める。
 いつも趣味全開で自分の欲望に忠実な彼女はこれでもか、と自分の好みの要素を設計図に加えていく。





 そんなこんなで加速空間で吸血鬼達をアシュレイは造っていった。
 その最中、彼女はもう一つ何か思いつき、その思いつきを纏めた計画書をテレジアに送りつけたのであった。








「改マル5計画?」

 はて、とテレジアは首を傾げる。
 マル5以下の数字の計画なんぞ彼女は聞いたこともなかった。
 そもそもの発端は数分前、彼女の執務机の上に転移してきた書類達。
 アシュレイから送られてきたそれらを流し読みし、テレジアは先程の声を上げた。

 何故いきなり5なのか、しかも改。
 些細なことだが彼女のボスがボスだけに何かしらの暗号があるのでは、と勘ぐってしまう。
 さて、その計画の内容は簡単に言ってしまえば、次のハルマゲドンの為に、次の次のハルマゲドンの為に戦力を維持・増強すること。
 要するに冷戦時のソ連やアメリカよろしく、いつでも戦争できる準備しておこうぜ、ということである。

 ただし、アシュレイはダイナミックにその方針を転換し、下級・中級魔族を教育し、後方戦力としようと決めた。
 後方戦力とはいったものの、実際は様々な経済活動や技術発展において必要な人材の育成とその数の増加だ。
 神界や魔界とてやっていることは人間社会と対して変わらない。
 
 ともあれ、もし戦争が始まったら、そのときにそういった人材ではない生まれたての下級・中級魔族を徴兵して前線で突撃させればいい、とアシュレイは考えていた。
 


 そして、それと一緒に送られてきたもう一つの計画があった。
 希望の光と名付けられたその計画にテレジアは首を傾げざるを得ない。

「何故、少威力の核分裂を扱った爆弾を造る必要があるのか……」

 アシュレイの領地にはウランもまた膨大に産出されている。
 放射線やら何やらを気にする必要がない魔族なので、それらは装飾品などに加工され、普通に売られている。

 しかし、兵器に転用しよう、と考える者は誰もいなかった。
 無論、核分裂などの様々な理論は認知されている。
 人間と比較すれば数千年単位で神魔の知識は先をいく。
 それでも造らなかったのは威力が低すぎるからだ。
 核兵器程度では魔神や熾天使の防御を貫くことすらもできず、対する彼らの攻撃は核を超える威力を持っている。
 中級以下の神魔族であるなら攻撃手段として核は有効であるが、そもそも彼らが核を持ったところで戦う相手となるだろう格上に核が通じないのならば意味がない。
 そして、同格同士の争いならそんな面倒くさい準備をせずに殴り合いをした方が早い。
 
 格上にも通用する可能性があるとすれば反物質であるが、こちらは中級以下の神魔族に扱えるシロモノではない。

 だが……核を向ける相手が神魔族ではなく人間であったならどうか。
 将来的に驕り高ぶるだろう人間に悪魔の恐怖を思い出させるには十分ではなかろうか。


 ともあれ、テレジアにとって主であるアシュレイの命令は絶対なのでベルフェゴールとニジに核兵器の製作に取り掛かるよう連絡し、また自らは改マル5計画の為に関係各所へ連絡した。





 そして現実時間で数日後、アシュレイは加速空間から出、ディアナを自室に呼んでいた。
 呼ばれたディアナは久しぶりの呼び出しに胸を高鳴らせる。
 彼女が部屋に入るとアシュレイはベッドの上に腰掛けて足をぷらぷらさせていた。
 アシュレイはそのままディアナに手招きし、自分の傍へと寄らせる。

「ディアナ、私はあなたを癒す必要があると思うの」

 目の前にやってきた彼女に対し、アシュレイは告げた。
 ディアナはその言葉にすぐに先の一件だと気がつく。
 しかし、彼女が何か言うよりも早くアシュレイは立ち上がり、彼女の唇を自らの唇で塞いだ。

 それだけで終わる筈もなく、より深いものへと発展する。
 部屋に反響する水音。
 アシュレイはディアナの腰に手を回し、そのまま彼女をベッドへと押し倒す。



「あなたの全てを清めてあげる」

 アシュレイはキスをやめるとそう告げ、ディアナの肉感的な体を舐め始めたのであった。










 アシュレイがディアナを色々な意味で癒している頃、レイチェルは頭を悩ませていた。
 それはアシュレイを祀る神殿について。
 未だに設計図すらもできておらず、どうにかしようと調べてみても基礎からやらなければ到底できない。
 しかも彼女にとって、やることはそれだけではない。
 彼女は部隊を持っている。
 その部隊に所属しているのはアシュレイの血こそ受けていないものの、それでも結構に優秀な吸血鬼達。
 アシュレイに狂信的な少女達によって構成されている。
 当初は特殊部隊的な用途であったのだが、どうせならとアシュレイの横槍でその規模はどんどこ拡大し、今では5000人を超える正面兵力を誇っている。
 で、そんな兵隊達のボスであるレイチェルは当然忙しい。
 ちなみに悪乗りしたアシュレイがその部隊を武装親衛隊と名づけ、レイチェルを親衛隊長官とかそういう地位につけたのも忙しくなった原因であったりする。

「どうしましょうか……」

 執務室にて悩むレイチェル。
 とはいえ、既に心は決まっている。
 テレジアに無理です、と正直に告げるのだ。
 しかし、期待されている身としては中々に断りづらい。

 それからレイチェルはどういう理由をつけて告げようか、と1時間程悩み、ピンと彼女は閃いた。

「アシュ様に事情を話しましょう。アシュ様なら……」

 きっと何とかしてくれる、とレイチェルはうんうんと頷く。
 何だかんだで困ったときのアシュレイだ。
 彼女は部下のことは放ったらかしているようでわりと気を配っている。

 もっとも何か困ったことはないか、と聞いたりするのはベッドの上で戦った後のことだが。


 そういうわけでレイチェルはアシュレイに面会したい旨の念話を送る。
 するとすぐに許可の返事。
 レイチェルはそれだけで終わる筈も、終わらせる筈もないので髪型や衣服の乱れを整えた上でアシュレイの部屋へと赴いた。 








 レイチェルがアシュレイの部屋に着くとそこにはある意味、予想通りの先客がいた。
 ベッドに腰掛けて、足を投げ出しているアシュレイ。
 その彼女の白い足を息遣い荒く舐め回しているディアナ。
 彼女の肉感的な体がややテカテカとしているところからレイチェルはアシュレイが舐めたと容易に想像がついた。
 ディアナの傷ついたプライドを癒すためにこういうことをしたのだろう、と。

「で、何か用かしら?」
「はい、アシュ様。実は私はテレジア様からアシュ様を祀る神殿の建築を任されたのですが、何分忙しく、また私はそういったことに通じていないので……」

 なるほどなるほど、と頷くアシュレイ。
 彼女はレイチェルがテレジアに直接言わない理由が簡単に予測できた。
 無理強いされ、関係が拗れるのを避ける為、自分にうまく収めて欲しい、と。
 レイチェルはアシュレイを狂信的に敬っているのだが、中々どうして狡賢い。
 とはいえ、悪魔の信者ならばそれくらいがちょうどいいのであるのも確か。

 だが、敢えてアシュレイは意地悪く問いかけてみた。

「どうして私に言うの? あなたが直接言えばいいのに」
「私はアシュ様から承った崇高なる使命があります。その遂行の為にはテレジア様からの仕事をやめねばなりません。ならばこそ、命じられた私ではなく、そうするよう命じたアシュ様がテレジア様に仰られるのが妥当かと……」

 アシュレイはくつくつと笑う。

 レイチェルの言ったことは単純明快であり、正論であった。
 アシュレイの命令はテレジアのものよりも優先される。
 ならばこそ、レイチェルがテレジアからの仕事とアシュレイの仕事が両立できないとなればどちらの仕事が優先されるかは言うまでもない。

「あなたは私のことが好きかしら?」

 アシュレイはなおも意地悪すべく、尋ねる。

「無論です。今、ここで空いているおみ足をお舐めしたいです」
「そう……そんなに大好きなら両立できるんじゃないかしら? 加速空間使えばいいんじゃないの?」

 最もな問い。
 だが、レイチェルは動じない。
 彼女とて実時間ではそれほどでもないが、加速空間でのことも含めれば結構な年月を地獄で過ごしているのだ。

「残念ですが、私もまだ未熟です。そして、建築などは私の分野ではありません。むしろそういったことはニジ様やベルフェゴール様が相応しいかと」

 さらりと適任者を押しつつ、レイチェルは更に一言付け加える。

「そういえばニジ様はアシュ様のご威光を勝手に使い、1週間待ちのプリンを大量入手しているとか……」

 アシュレイの眉が僅かに動く。
 彼女はすかさずニジに事の次第を問いただすべく念話を送る。
 数秒と経たずにごめんなさい、と言ってくるニジ。

 だが、ごめんなさいで許すアシュレイではない。
 彼女はニジに対してプリンを半分寄越すよう伝え、念話を切った。

「ま、別にいいわ。神殿の件。無くてももう十分に強いし……いや、観光名所として金とるのもアリか……ニジに造らせるからいいわ。今まで頑張ってくれてありがとう」

 アシュレイのまさかの言葉にレイチェルは感激のあまり体を震わせる。
 彼女はこういう風に言われたことは皆無に等しい。
 
「で、レイチェル……もう一方の足を舐めてくれないかしら?」

 そんな感動をぶち壊しにするかのようなアシュレイの発言であるが、レイチェルにとってはそれはご褒美だ。
 異論などある筈もなく、彼女はディアナの横に座り、アシュレイの足首を両手で優しく包みこむように持ち、ゆっくりと赤い舌をその肌につけた。

 そして、ゆっくりと上下に舌を動かす。
 感じるアシュレイの暖かさ、僅かな汗の匂いと体臭。

 アシュタロスは人間達の間では悪臭を放つとされているが、アシュレイからすれば全くの誤解である。
 彼女は毎日風呂に入り、歯磨きも欠かさない。
 また、その体臭は女性特有の甘さに加え、更に淫魔としてのフェロモンも加わる為に大変にいい匂いだ。

 レイチェルは息を荒げ、その匂いを存分に堪能しつつ一心不乱にアシュレイの足を舐める。
 隣のディアナも負けじと舐め続ける。
 そして、アシュレイは満面の笑みで犬のように舐める2人の頭を撫でたのであった。

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