色々と駄目な話

「地上侵攻? 駄目や」

 サッちゃんはアシュレイの言葉に即答した。
 むーっと膨れる彼女。
 だが、サッちゃんとしても譲れない部分はある。

「サッちゃん、最後まで聞いてよ」

 そう言うアシュレイに聞くだけ聞くことにするサッちゃん。

「何も私達が出張る訳じゃないのよ。私のところにいるエヴァンジェリンが父母に復讐したいっていうから、心優しい私は吸血鬼の軍勢を与えて、ついでに地上も征服させてみようかなと」
「あー、確かにそれなら言い訳できるなぁ……ちなみにその軍勢っちゅーのは、あんさんの血を与えたヤツなんか?」
「違うわ。もうちょっとでお手軽に吸血鬼を造れるようになるから、その連中を彼女に与えるの」

 少し前、エヴァンジェリンの記憶を本人の許可を取った上でアシュレイは読ませてもらっている。
 そこにあった吸血鬼化の魔法をより簡略化し、魔法陣に入っただけで吸血鬼化できるものをアシュレイは鋭意開発中だ。
 予定では、できあがる吸血鬼は日光にこそ強いものの、他の弱点を持ったもの。
 使い捨ての兵隊にするには十分過ぎる。

「吸血鬼化させる人間達……勿論、使い捨てだから男だけど、それはもう確保してあるのよ。洗脳済みなの」
「手際がええっちゅーか、わいの許可が無くても事後承諾でやるつもりやったんやろ?」

 ジト目でそう尋ねるサッちゃんに悪びれもせずにアシュレイは頷く。
 溜息を彼は吐いた。

「まあ、ええやろ。ただし、人間全部滅ぼすまでやったらアカンで? それと、神族側にもこれは伝える」
「連中の……特に主神クラスの直接的介入は禁止よ」
「下級神族辺りは介入させるかもしれへんが、まあそこら辺は許してやってくれへんか?」

 サッちゃんのお願いにアシュレイは数秒思案し、承諾する。
 そろそろエヴァンジェリンにも神族と戦わせてみよう、とそう思った次第だ。

「代理戦争やけど人間達も頑張ってくれるやろ」
「ま、それなりに頑張るでしょう。それじゃ私は帰るわね。あとはよろしく」

 手をひらひらさせてアシュレイは彼の執務室を後にしたのだった。












 城に戻ったアシュレイは完全なる世界との連絡役を呼んだ。
 数秒と経たずに彼女の自室に参上する彼女――セクストゥム。
 6番目と単純に呼ばれていた彼女だが、色々な意味で情が移ったアシュレイにより今ではセレステと呼ばれていた。
 言うまでもないが、既にアシュレイは彼女を何度も美味しく頂いている。

「アシュ様、お呼びですか?」

 アシュレイはセレステの問いに何も答えず、彼女へと近づき、その白い頬を撫でる。
 撫でられるセレステは為されるがまま。
 使い魔として生み出されたアーウェルンクスシリーズ。
 彼らは創造主であるアシュレイに絶対に逆らわない。

「心地いい?」

 アシュレイの問いにセレステは頷く。

「あなたはどうして欲しい?」

 その問いにセレステは躊躇なく告げる。

「この前のようにキスをして欲しいです」

 彼女は何ら表情を変えずにそう告げた。
 アシュレイにはこういう人形っぽいところが堪らない。
 彼女が彼らを造った際、手を抜いたと言ったが、その手を抜いた結果、感情を外に出さない個体が幾つか見受けられた。

「どうしてそうして欲しいの?」
「心地良いからです」
「この前のように、その先に進まなくていいの?」

 セレステはそのことを思い出し、僅かに頬を赤く染めるが、頷いた。

「どうして?」
「行為後、アシュ様のお役に立てなくなってしまいます」

 セレステの答えにアシュレイはそのまま押し倒してしまいたい気持ちに襲われる。
 セレステが彼女に気に入られている理由は我慢してでも、アシュレイの役に立とうと健気に頑張る姿を見せてくれるからだ。
 言うまでもないが、アシュレイと致すことは非常に体力を消耗する。

 かつてはテレジアをはじめとした従者達にも見られたことだが、今ではもう見れなかった。
 あまりにも彼女達が力をつけすぎたおかげで、アシュレイが大ハッスルでもしなければ彼女達は行為後も極普通に仕事に戻ってしまう。
 敢えて我慢する、ということをしてくれなかった。

 新しくきた陣風なら見せてくれるかとアシュレイは期待したが、彼女は彼女で役立たずと罵られることに快感を覚えてしまうので我慢するというのは見せてくれなかった。
 もっとも、陣風は役立たずと罵られて快感を感じても、次はそう言われないように、と頑張っているところが健気ではあったのだが。

「セレステ、気持ちいいことはもうしなくていいの?」
「……嫌です」
「じゃあするの?」
「……アシュ様のお役に立てないのは、私にとってとても苦痛です」

 意地悪な質問にセレステはそう答える。
 敢えてこういう質問をしているアシュレイはセレステもまた陣風と同じくマゾの素質があると見抜いていた。

「セレステ、私のことが好き?」

 アシュレイの問いに彼女は頷く。

「それってどういう感情か説明できる?」
「とてもおかしいものです」

 彼女は頷き、そう前置きした後に告げる。

「私はあなた様に尽くすことが存在意義である筈なのに、あなた様に尽くしたい、私の全てを捧げたいと思ってしまうのです」

 うんうん、とアシュレイは満足気に頷く。
 彼女がセレステにしたことはゆっくりと数年掛けて快楽を味合わせたに過ぎない。
 言ってしまえば調教だが、今更アシュレイはそういうことに罪悪感を感じるわけがなかった。

「セレステ、私はあなたを抱きたいわ。駄目かしら?」

 主の言葉にセレステは何故、自分を呼んだのか理解できた。
 アシュレイが自分を抱きたいが為に呼んだということだ。 
 それはセレステの心を喜びで満ち溢れさせるものであった。

「アシュ様が抱いてくださるのなら……」

 先ほどよりも頬を朱に染め、それでもアシュレイをまっすぐに見据えながらセレステは告げたのだった。










 数時間後、アシュレイはセレステを部屋から送り出し、リリムが持ってきた人間牧場に関する報告書をソファに座りながら読んでいた。
 加速空間に作られた人間牧場は一応は街であるが、不老不死で不死身となった人間の女しか存在しない。
 彼女達は日々、美味しいものを食べ、美しいドレスを着飾り、そして、淫らなことを繰り広げている。
 アシュレイもそこに混ざって全員とやったりしているが、そこは些細なことだ。

「まだ候補者なし、か。まあ、気長にやればいいんだけどね」

 報告書を読み終え、アシュレイはそう呟く。
 いざとなったらもう使い魔でいいや、とそういうことを考えてしまう彼女だ。
 そもそも闇の福音計画自体が彼女の思いつきであり、マトモにやっていないことから単なる暇つぶしに過ぎないことが分かる。

「ディアナ」

 アシュレイが名を呼べばすぐに参上するディアナ。
 彼女はアシュレイの前に膝まずき、頭を垂れている。

「暇なんだけど?」

 あんまりといえばあんまりなアシュレイの言葉だが、ディアナは何とも思わずに告げる。

「畏れながらアシュ様……最近、ご無沙汰なのですが……」

 その言葉にアシュレイはハッと気がついた。
 最近はエヴァンジェリンに構ってばかりで、テレジアをはじめとした従者達とやってないな、と。

「アシュ様、フェネクスですが……最近では自らの手で体を慰めています。そろそろ食べ頃かと」

 アシュレイの城では大抵、どこかで誰かと誰かが致している。
 女魔族と淫魔であったり、淫魔同士であったり。
 アシュレイが奨励していることもあって、わりとオープンな場所でも行われていた。

 フェネクスはその現場を数えきれない程に目撃しており、体が疼いてしまうのだ。
 アシュレイによるフェネクスへの性的行為禁止令が未だ解かれていないこともあり、誰も彼女をそういうことに誘ったりはしない。
 必然的にフェネクスは疼いた体は自分で鎮めるしかなく、結果としてそれは一種の放置プレイに繋がっていた。

 その光景を想像したのか、アシュレイは好色な笑みを浮かべる。

「ディアナ、私は敢えて食べない。まだ食べないわ。だから、あなたがフェネクスの体を鎮めるのに協力してあげなさい」

 ただし、と彼女は付け加える。

「フェネクスの体に触るのはいいけど、キスとか舌で舐めたりとかは駄目よ。あなたは生やしてもいいけど、彼女が生やしては駄目。あなたのモノを触らせることも駄目ね」

 細かな注文だが、ディアナに異論はない。
 
「で、そういうこと考えてたらやりたくなったの。とりあえず……」

 アシュレイはすっと右足を差し出した。
 靴も靴下も履いておらず素足だ。
 頭を下げたままのディアナの視界にその足が入る。
 彼女はその意味を悟り、ゆっくりとアシュレイの右足を両手で優しく包みこみ、ゆっくりと口づけた。

「そのまま舐めなさい」

 やや興奮した声でアシュレイは告げる。
 彼女はこうやって足を舐めさせるのが大好きであった。
 そして、彼女は決意した。
 この後、テレジア達も呼んでやらせよう、と。











 アシュレイがディアナとよろしくやっている頃、エヴァンジェリンは難題を突きつけられていた。
 彼女の前には腕を組んだエシュタル。
 相変わらず子供形態なのでその胸はぺったんこである。

「ほら、子猫なら言うしかないだろう?」
「だ、だけど、語尾に『にゃ』をつけるなんて……」

 嫌々と首を左右に振るエヴァンジェリン。
 事の始まりは数分前、ミドルネームが不死の子猫というところから始まった。
 最初はエシュタルが前にもあったように私もアシュ様にミドルネームをつけて欲しい、と言ったりしていたが、途中から猫ならそれっぽくした方がいいんじゃないか、と雲行きが怪しくなった。

 そして、今に至り、語尾ににゃをつけるようエヴァンジェリンは無理強いをされていた。


「いいから言え。言わないと四肢をちぎってダルマにする」

 それは嫌なのでエヴァンジェリンは仕方がなく言ってみた。

「こ、これでいいにゃ?」
「口調を『です』に変えてもう一回」
「こ、これでいいですにゃ? 恥ずかしいですにゃあ……」

 エシュタルは思わず体を震わせる。
 彼女はエヴァンジェリンの両肩をガシッと掴んだ。

「しばらくそれでいろ……にゃ、か……私もやればアシュ様に……」

 自分の欲望を満たすと同時に更に欲望を叶えようとするエシュタルは悪魔の鑑であった。

「エシュタルもやるんですにゃ? お揃いですにゃ?」
「お揃いにゃ。これでいいにゃ?」
「お揃いですにゃあ」

 それから2人はにゃーにゃー言い合う。
 誰かがいたなら、にゃーにゃーうるさい、ときっと言ったことだろう。

 しばらくしてエシュタルはハッと我に返った。

「にゃ、エヴァンジェリン。勉強するにゃ」
「そうですにゃ。こんなことしてる場合じゃないですにゃ」
「でもこれは続けるにゃ。命令にゃあ」
「にゃふ……もうやめさせてにゃ……」

 そう言うエヴァンジェリンにエシュタルは笑って告げる。

「にゃししし。駄目にゃあ、命令にゃあ」

 何かもう色々駄目だった。

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