Categotry Archives: 第3章 悪魔の戯れ

目覚めるエヴァンジェリン

 エヴァンジェリンとレイチェルはぐったりと床に倒れていた。
 2人の前には棍を持った斉天大聖の姿。
 
「今日はこれくらいかのぅ……しっかり休むのじゃ」

 そう言って彼はその場を後にした。
 そそくさと観戦していた小竜姫が2人に駆け寄る。

「生きてますかー?」
「……3回くらい死んだと思う」
「……私は5回です」
「盛大に心臓ぶち抜かれたりしてましたからね」

 そうこうしているうちにエヴァンジェリンが、ついでレイチェルが起き上がる。
 吸血鬼……それもアシュレイの血をもらった彼女達はいわゆる真祖に分類される。
 かなり手加減されているとはいえ、斉天大聖の攻撃を派手に喰らっても、それなりの速さで回復できるのだ。

「さて、夕餉の前に温泉にどうぞ……しかし、前々から気になっていたのですが、吸血鬼は流水が苦手と聞きましたけど、意外と大丈夫なんですね」
「私もレイチェルも真祖で、伝承にあるものとは格が違うのでな」

 エヴァンジェリンの言葉にレイチェルが続ける。

「アシュ様の直属の眷属ですので、並大抵のことではビクともしません」

 なるほど、と小竜姫は頷く。
 エヴァンジェリンとレイチェルがやってきて早数ヶ月。
 2人共、その成長は目覚しく、この分なら僅か数年でそれなりの使い手となることは間違いない。

「あ、そういえば、そのアシュタロス様から手紙が届いていましたよ」

 小竜姫の言葉に約1名の態度は一変した。

「どこですか!? どこに!」

 詰め寄るレイチェルと特に何とも思っていないエヴァンジェリン。

「そうくると思って持ってきました」

 小竜姫は慌てることなく懐から2通の手紙を取り出し、2人に手渡した。
 レイチェルは食い入るように、対するエヴァンジェリンはただ流し読みする。

 レイチェルの手紙にはアシュレイから彼女の体調だとか色々と長ったらしく書いてあり、読んでいる彼女は感激に体を震わせていた。

 対するエヴァンジェリンにはそこまで長々と前置きはなく、ただ励ましの言葉と共に斉天大聖をボコせるくらいに強くなるように、と中々ハードなことが書かれていた。

「……いや、どう考えても無理だろ……」

 思わずそう呟いてしまうエヴァンジェリンを誰も責めることはできまい。

「さて、私は夕餉の支度をしてきますので、汗を流しておいてくださいね」

 小竜姫は2人を置いて、さっさと道場から出て行った。
 
「エヴァ、頑張りましょう!」

 レイチェルは手紙を最後まで読み終え、そう言った。

「……ああ、まあ、テキトーにな」

 対するエヴァンジェリンはそう返した。
 温度差が激しい2人。

「とにかく、行くか……汗が気持ち悪い」

 エヴァンジェリンはそう言って立ち上がり、レイチェルもまた頷いて立ち上がった。
 そして、2人は妙神山にある温泉へと向かった。









 妙神山にある温泉は露天風呂だ。
 霊験あらたかであるのは間違いなく、その効能は万病に効き、美容にもいい。
 
「……相変わらず敗北感しかないんだが」

 じーっとエヴァンジェリンはレイチェルの裸体を見つめる。
 成長するようになったとはいえ、それは数千年単位でのこと。
 今のエヴァンジェリンは永遠に10歳のまま、という最悪な状態こそ脱していたものの、まだ14歳程度。
 対するレイチェルは18歳程度。
 エヴァンジェリンが嫉妬しても何ら不思議ではなかった。

「そうですか? 私はアシュ様が好んでくださる体ならば何でもいいですが」
「ちょっとよく見せてみろ」

 そう言いつつ、エヴァンジェリンはレイチェルに近づき、その胸や白い肌をまじまじと見つめる。
 レイチェルは彼女が見やすいように、と体を動かす。

 アシュレイに抱かれるだけでなく、歓迎会と称した大人数での肉欲の宴が開催されたこともあり、同性に見せるのは何の抵抗もなかった。
 勿論、エヴァンジェリンはその歓迎会に呼ばれておらず、またアシュレイが美味しく頂いてもいない。
 これはエヴァンジェリンがアシュレイのことを単なる上司兼庇護者としか思っていないに尽きる。
 レイチェルのように崇めてくれたり、あるいは他の従者達のように狂信的な忠誠を誓っているというわけでもない。
 そういう意味で、エヴァンジェリンはアシュレイの部下としては極めて稀な存在であった。

 さすがのアシュレイもそういう存在であるエヴァンジェリンに手を出すことは躊躇われる。
 彼女としては勿論、エヴァンジェリンも美味しく頂きたいところであるが、中々親密になる機会がなかった。


「触るぞ」

 エヴァンジェリンはそう告げ、返事を聞かずに波間に浮かぶ2つの白い桃を両手で掴む。

「んっ……あまり、強く握っては……」
「ふふふ、中々いい感触だぞ? アシュ様が女好きと聞いたときはありえん、と思ったが……気持ちが分かる気がする……」

 ぐにぐに、とエヴァンジェリンはレイチェルの胸を揉みしだく。
 時折、彼女はその先端部を弄る。
 与えられる感触にレイチェルは吐息を零し、体を僅かに震わせる。

「お前のそういう顔は初めて見たが……実にいい顔をするじゃないか。アシュ様にもこういうことされてるのか?」

 はぁはぁ、と息を荒げるレイチェル。
 彼女は答えれない。

「人でなしな私はどうせいい男なんぞ捕まえられんだろうから、女に走るのもいいかもしれんなぁ……? 女なら選り取り見取りだ」
「あ、エヴァ……その、アシュ様が……女が男の役割もできるから、男はいらないと……」

 レイチェルの言葉にエヴァンジェリンはピンときた。
 エシュタルの授業で体を変化させるものがあったからだ。
 そのとき、エシュタルは女でありながら、男のモノを生やしていた。

「なるほど……人間の常識で考えてはいかんのか……いや、色々学んだつもりではあったが、まだまだ人間の常識に囚われていたようだ。やはり数万年では足りん。より多くの年月を掛けねばならんか」

 そう言いつつ、エヴァンジェリンは右手をレイチェルの胸からゆっくりと下へと下ろしていく。
 へその辺りを撫で、更に下へ。
 そして、辿り着いた。
 
「濡れているのか、それとも温泉のせいか……はてさて、どっちなのか……?」

 意地悪にもそう問いかけるエヴァンジェリンは嗜虐的な笑みを浮かべている。

「え、エヴァ……これ以上はやめて……」

 喘ぐようにそう告げるレイチェルだが、その言葉はエヴァンジェリンを高ぶらせるだけだ。

「いいではないか。別に減るものではあるまい……」

 そう言いつつ、エヴァンジェリンはレイチェルの首筋に顔を埋め、牙を突き立てる。
 ん、という声を零し、レイチェルは吸血の快楽にその身を震わせた。

 エヴァンジェリンの喉に流れこむレイチェルの血液。
 ごくごく、と彼女は濃厚なそれを嚥下していく。


「ああ、美味い。アシュ様がお前の血液は最高だと言っているのを聞いたことがあるが、本当に美味いな」

 エヴァンジェリンはそう告げた後、レイチェルの首筋に残った吸血痕を舌で舐めて消していく。

「駄目……お願い……もうやめて……」
「お前は吸血鬼となった後にアシュ様に治療されて処女に戻った。だが、その後アシュ様に抱かれた。お前は吸血鬼の復元能力で再び処女に戻ったが、処女ではない。つまり、私が頂いても問題ないわけだな?」

 エヴァンジェリンのとんでも理論にレイチェルは反論する術を持たない。
 なぜならば彼女もまた溜まっていたのだ。
 アシュレイにここに送り出されて数ヶ月、ずーっと修行の日々であった。

「え、エヴァ……お願い……ここではやめて……」

 故にレイチェルは実質的なOKを出してしまった。
 その言葉にエヴァンジェリンは笑みを深め、答える。

「ああ、そうしよう……せっかくの温泉が汚れてしまうからな……」

 エヴァンジェリンはその後もレイチェルにぴったりと張り付き、時には言葉で、時にはその手で彼女を責めたのだった。














 一方その頃、台所では――



「あ、お味噌取ってください」
「はい」

 小竜姫と陣風が仲良く並んで夕飯の支度をしていた。
 既に仕込みは済んでいたので、あとは調理するだけだ。
 
 本日の献立はイワナの塩焼き、白菜の漬物、豆腐と玉ねぎの味噌汁、白米である。


「いい味です」

 小竜姫が味噌汁の味見をし、満足気に頷く。
 対する陣風は白菜の漬物を食べやすいように包丁で切っている。
 小竜姫も陣風も共に剣を扱う者であり、何度も鍛錬で剣を交えていたことから、今では大変仲が良い。
 小竜姫は神族から魔族へと堕ちた陣風であるにも関わらず、極普通に接していた。

「小竜姫、できました」
「あ、はい。それじゃ、イワナもいい具合ですし、そろそろ盛り付けに移りましょうか」


  露天風呂でエヴァンジェリンとレイチェルがにゃんにゃんしていることなど露知らず、とても穏やかな空気であった。