Categotry Archives: 第3章 悪魔の戯れ

我慢できなかった彼女

 ある日、アシュレイはエヴァンジェリンを呼び出した。
 彼女が呼び出した場所は天ヶ崎家……ではなく、地獄にある城の彼女の寝室だ。
 エヴァンジェリンはソフィアにはマクダウェル領攻撃の際までは何事も無かったかのように振舞うよう指示し、地獄に戻ってきていたのでちょうどよかった。





 エヴァンジェリンが部屋に入るとアシュレイはノースリーブ姿で下は何も履いていなかった。
 色々と丸見えである。

「何か用か? 用事は分かっているが」

 エヴァンジェリンの言葉にアシュレイはくすくすと笑う。
 彼女は地上侵攻後までとっておこうかと思ったが、何が起こるかわからないのが世の中。
 故に今のうちに美味しく頂いてしまおうという魂胆だ。
 我慢が足りないと言えるが、アシュレイだから仕方がない。

 エヴァンジェリンも手を出されない筈がない、と覚悟していただけに動揺はない。

「レイチェルとやったのは本人から聞いてるわ。かなり喘がせたみたいじゃないの」
「ああ。中々、女の体もいいものだな」

 そう言うエヴァンジェリンにアシュレイはすすす、と音もなく近寄り、その頬を舌で舐める。

「でも、女の快楽を味わったことはないでしょう?」
「あいにくな……レイチェルに処女をやろうかと思ったが、敢えてお前の為にとっておいた。お前が私を狙っていることは修行しているとき、エシュタルから聞いた」
「ちゃんととっておいてくれるエヴァはいい子じゃないの」

 そう言うアシュレイにエヴァンジェリンは笑みを浮かべる。

「初めては痛いと聞くが……お前ならそんなものを感じることもなく、極上の快楽を味合わせてくれるんだろう?」
「私にかかれば処女は1分で痴女に化ける。あなたがその小さな体で精一杯喘ぐ姿は……」

 好色な笑みを浮かべるアシュレイにエヴァンジェリンはゆっくりと衣服を脱いでいく。
 一糸纏わぬ姿となった彼女を見、アシュレイは感嘆の息を吐いた。

「上等な人形ね。本当に可愛らしい」
「その可愛らしい体を貪り食うのか?」
「あら、期待しているんじゃなくて?」
「期待していない、と言えば嘘になるな」

 アシュレイはエヴァンジェリンを抱き寄せ、その背中に手を回す。
 交差する紅い瞳。

「どういうのがお好み?」
「最初は優しく、その後は激しく獣のように」

 その言葉にアシュレイはエヴァンジェリンの可愛らしい口に自らのものをつけた。
 そして、数秒と経たずにそのままお互いに貪るように激しいキスをしつつ、ベッドへ倒れこんだのだった。










「あー、斬りてー」

 レイは城内をぶらついていた。
 エヴァンジェリンに身の回りの世話という目的で創られた彼女。
 その身の回り世話には主人が出るまでもない戦闘も含まれるが故に、レイはそれなりに危ない使い魔に仕上がっていた。

 具体的には肉を切り裂き、血を浴びることに快感を覚えるのだ。




 そんな彼女の視界にフェネクスが入ってきた。
 レイは極自然な動作で剣を抜き放ち、瞬動で間合いを詰め……

「……そりゃねぇぜ」

 鎖の形をした炎にレイは拘束されてしまった。
 彼女の肉が焼ける匂いが周囲に漂う。

「今は気分ではない。また今度な」

 フェネクスはそう言い、レイの頭を撫でるとさっさとその場を後にしてしまった。
 彼女が見えなくなってから数秒後、レイを拘束していた炎は掻き消えた。
 自由になった彼女は焼けた箇所を復元しつつ、再びぶらつき始めたのだった。










「アシュ様……」

 レイチェルは自室でアシュレイに祈りを捧げていた。
 朝昼晩の礼拝は彼女の日課だ。

 やがて祈り終えたレイチェルはあることに気がついた。

「……アシュ様の為の教会があってもいいような」

 思い立ったが吉日とばかりにレイチェルは早速、テレジアの下へ向かった。





 執務室ではテレジアがカリカリとペンを動かしていた。
 書類仕事かと思いきや、そうではない。
 彼女の事務処理能力はサッちゃんが羨む程に凄まじい。

「……ふふ」

 テレジアは手を一度止め、できつつあるものを見て微笑む。
 あと数ページで完成する。

 彼女が作成しているのはいわゆる同人誌といわれるものだ。
 題材はアシュレイを調教しようというもの。
 嫌がるアシュレイを快楽で虜にし、最後には奴隷にしてしまうまでを描いた数百ページに及ぶ、もはや同人誌の枠を超えたものであったりする。
 だが、非公式なので同人誌である。あくまでも。

 勿論、奴隷となったアシュレイとの生活を描いた第二弾もテレジアは構想中である。
 
 少し溜まったので、適当な淫魔でも呼んで発散させようか、と彼女は思い始める。
 非常に濃厚なものを描いている彼女にとって、性欲が溜まるのもまた速い。
 彼女の執務室の扉がノックされたのはそんなときであった。



「何か用か?」

 入ってきたレイチェルにテレジアは問いかけた。
 彼女は重々しく頷き、用件を告げる。

「テレジア様、アシュ様を祀る教会とか神殿があってもいいのではないでしょうか?」


 その言葉にテレジアは確かに、と思わず頷いていた。

 先の戦争の英雄として地獄全土にその名が轟いているアシュレイである。
 その功績や逸話などから彼女を崇拝する者は多い。
 神社とか神殿とかそういうのを造って、お布施を頂けば新たな財源となる。

「わかった。早速関係各所に連絡しておこう……ところで、淫魔をついでに呼んできてくれないか? できればアシュ様と似た子をな」

 ただヤるだけでなく、構想中の第二弾の取材も兼ねているテレジアであった。






 エヴァンジェリンとの情事を終えたアシュレイはベッドでぼーっとしていた。
 彼女の横にはエヴァンジェリンがその首筋に顔を埋め、彼女の血を吸っている。

「……エヴァ」

 呼ぶ声にエヴァンジェリンは首筋から顔を離した。
 その紅い瞳がアシュレイを見つめる。

「ソフィア、私にも貸してくれない?」
「私の妻を寝取るつもりか?」

 そう言うエヴァにアシュレイはくつくつと笑う。

「元々あなたが最初に寝取ったんでしょう。まあ、気が向いたらでいいわ」
「気が向いたらな」
「ところでエヴァ。私って友達が極めて少ないんだけど、どう思う?」
「お前に友達はあんまりいないが、部下と女はいっぱいいるな」
「魔王に対してお前呼ばわりとか……」
「今更だろう」

 そう言い、エヴァンジェリンはゆっくりと顔を動かし、アシュレイの頬をその赤い舌で蛇のように舐める。

「私もあなたも誰かに勝手にそうされ、そうなった後に開き直ったというところまで同じ」

 エヴァンジェリンはアシュレイがどうしてそうなったのかを未だ知らないが、その言葉でだいたいの推測がついた。
 だが、彼女は問うことをしない。
 必要とあらば……いや、アシュレイなら気まぐれで話してくれるだろうし、何より知ったところで関係が変わるわけでもない。

 エヴァンジェリンはアシュレイの部下であり、ついさっき、妾の1人となった。

「というか、お前、今、何人の女がいるんだ?」
「……淫魔が1500万で、その他諸々で……2500万人くらい? もっといるかも」
「無限の性欲だな」

 呆れ顔のエヴァンジェリン。
 おそらくこんなたくさんの女をモノにしているヤツは歴史上初めてだろう。

「ああ、そうだ。ニジの妹と新しく入った子爵に会わないといけないんだった」
「私を置いていくのか?」
「来たいの? ニジの妹はともかく、子爵の方はヘルマンの友人だかでむさ苦しいおっさんよ?」

 エヴァンジェリンは数秒迷い――

「やめておく。暇だから地上探索でもしてくる」

 そんな彼女にアシュレイはくすくすと笑い、その唇を奪う。
 突然のことにもエヴァンジェリンは驚かずにその求めに応じる。

 暫しの間、部屋に水音が木霊する。





 そして数分後、2人は離れた。


「ところでいいのか? お前の花嫁が嫉妬するんじゃ?」
「フレイヤならいいわ。あの子、こういうことを教えたら、怒るどころか混ぜてって言ってたし」
「あの美しさで浮気も構わない……最高じゃないか」 

 アシュレイは胸を張り、告げる。

「おまけに義父や義兄によれば彼女は尽くすタイプと聞くわ。甲斐甲斐しく色々とね」
「……今、私は後悔している。私も女神を嫁にすれば……」
「というか、私の部下で結婚する予定があるのってあなたくらいなものなんだけどね」

 そう言うアシュレイにジト目でエヴァンジェリンは告げる。

「女は全部お前のものなんだろう?」
「そうよ。でもね、結婚はしないけど、ヤッてる子はいっぱいよ? エシュタルとテレジアだったり、ディアナとシルヴィアだったり……」
「風紀の乱れ甚だしいな。城にいるだけで相手には苦労せん。お前の部屋に来る前に私は4人の淫魔と5人の女魔族に誘われたぞ。断ったら別のヤツを誘ってその場でヤり始めた」
「そういうのを推奨しているもの」

 アシュレイはゆっくりとベッドから起き上がろうとするが、それをエヴァンジェリンは押し留める。

「お前の用事は緊急の用事か?」

 行動とその言葉でアシュレイにはエヴァンジェリンが何を欲しているか理解できた。
 初めて地獄に来たばかりのあの少女が今やこんなにも淫らな存在になっている、とアシュレイはより興奮する。
 アシュレイは告げる。

「別にいつでもいいわ」
「なら、飽きるまでしよう。女の快楽をもっと私に教えて欲しい」

 挑戦的な視線を向けるエヴァンジェリンに、アシュレイは不敵に笑って返す。

「激しくいくわ……」







 それから数分後、部屋に嬌声が響き渡るのだった。